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 悠は私に押されるまま、ゆっくりと私から離れた。

「……何だよ、それ」

発せられた言葉に薄く怒気が滲んでいた気がして、悠の方を見た。俯いていて表情が分からない。

「悠?」

聞き返した私に、悠は顔をあげて、目を合わせた。

「どうでもいい奴なんか助けに来ねぇよ、」

吐き捨てるみたいにそれだけ言った悠は、また目を逸らしてしまった。だけど、今の、期待しても良いって言われてるみたいなもんだよ。

「悠……?それって、どういう、」

どきどきと高鳴る心臓を抑えながら、漸く口に出来たのはそれだけだった。そろそろと悠の方を見ると、口許を手で覆っている悠がそこに居た。

「―――っ、彼女なんか居ない、」

「え?」

「俺は、ずっと、美奈しか見てねぇよ」

聞こえた言葉が、信じられなかった。今度は正面から私を捉えて離さない悠の視線に、頬が熱くなる。

「だって、彼女出来たって、」

「そんなん、どっかの馬鹿がデマ流したんだろ」

悠の視線が真っ直ぐ、ただ私だけを見てる。それだけでこんなにもどきどきして、胸がいっぱいになる。

「お前を巻き込みたくなかった。だから名前もゆうって呼ばせて、お前が分かんねぇようにしてたんだよ」

「……だから、私のこと誰、って、言ったの…?」

「好きな奴助けねぇとか、無理だろ。―――そのせいで、美奈のこと傷付けたのは、すげぇ後悔した」

悠の手が頬に伸びてきて、目尻に溜まった涙をそっと拭ってくれた。滅多に見れない悠の微笑が眩しくて、大好きで、もっと笑ってほしいって、すごく思うのに、他の誰かに見せたくないとも思う。

「美奈、好きだ」

「っ……わたし、も、悠のこと好き、だよ」

堪えきれなくなった涙が、頬を伝う。もう一度抱き締められた悠の腕の中はすごく温かくて、幸せだって素直に思えた。

「これからは側に居て守る、それでも良いか…?」

嬉しくて、幸せで、それなのに涙が止まらなくて、私はただこくこくと何度も頷いた。

「美奈、もう放さねぇから」

私たちは笑い合って、それから触れるだけの優しいキスをした。


君が見る世界の隅に、は居たくなかった

(そして気付いたのは、)
(僕が見る世界の隅に、君が居るだけでこんなにも)

(こんなにも幸せだということ)


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