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悠は金髪の人を無理矢理立たせて、他の人たちと一緒に廃工場から追い出してしまった。さっきまでの喧騒が嘘だったみたいに、沈黙が私たちを包む。ゆっくりと私の方に歩いてくる悠の足取りが何となく覚束無く見えて、私はまた心臓が苦しくなるのを感じた。
「はる、か……」
私の所まで辿り着いた悠は、縛られている私の手を取って、縄をほどき始めた。
「っ……くっそ、」
悠の手は小刻みに震えていた。そのせいでなかなかほどけなかった縄が漸くほどけだして、ゆっくり、私が痛くないように外してくれた。
「はるか……なんで、」
私の手を持って俯いたままの悠に、不安になって声をかけた。さっき殴られてた所が痛いのかなと思って、自由になった右手をそろそろと悠の方に伸ばす。
「ひゃ…っ」
伸ばした手が悠の首に触れかけた瞬間、その手を掴まれて、ぐらりと体が悠の方に傾いだ。
「くそ……心配、させんな……っ」
抱き締められて耳元で囁かれた言葉が、すごく切羽詰まったように聞こえて、胸が苦しくなる。悠はまだ震えていた。どうしてもその震えが止まらなくて、私はそっと悠の背中に腕を回してみた。
「っ、美奈…何も、されてないな?」
労るように気遣うように優しく撫でられる背中から、悠が本当に心配してくれてるのが伝わってくるみたいで、私は泣きたくなるのを必死で我慢した。
「だいじょ、ぶ、」
私なんかより悠の方が心配だよって言いたかったのに、これ以上喋ったら泣くのを抑えきれなくなりそうで、代わりに悠の背中に回した手の力を強くした。
「怖かっただろ、我慢すんな」
それなのに、悠が全部見透かしたみたいに言うから。期待しちゃいそうになって辛い。ああ、やっぱり好きなんだな、なんて暢気なことを考えた。
「………ありがとう、」
助けに来てくれて、心配してくれて、もうそれだけで十分だよ。悠がこんなに優しいことを、私以外の子が知ってるのはちょっと辛いけど、だけど悠がその子を選んだなら私は諦めなきゃ。
「もう大丈夫、だから。悠、私なんかに優しくしちゃダメだよ」
その優しさは彼女さんのもので、私に向けられちゃいけないんだと思う。好き、だからこそ、悠にはちゃんとその子のこと大事にしてほしい。私は、黙ったまま動かない悠の肩をそっと押した。
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