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空気がぴしりと音を立てたみたいに一瞬で凍りつく。私の手首を掴んでいた金髪の人が、怖いぐらいの笑顔で背後の扉の前に立つ人物を振り返った。
「そいつ、放せ」
地を這うような低い声が、周囲のわめき声を突き抜けて一直線に私たちの所まで届いた。
「うそ……なん、で?」
あの日と同じ、何度忘れようとしても忘れられなかった声が、姿が、今、私を拐った人たちと対峙している。
「やっぱり、来てくれると思ってたよ」
金髪の人が私の手を放した。それが合図だったかのように、周りを囲っていた人たちが悠に向かって一斉に雪崩れ込む。
「ゆう、楽しませてくれよ?」
大勢を相手取って1人で戦う悠を見ていられなくて、思わず目を閉じた。手首を縛られて耳を塞げないせいで、殴り合う音とか声が全部、ダイレクトに聞こえてくる。人が倒れる音がたくさんして、その代わり悠の殴られたみたいな声も聞こえた。
「っぐ、」
一際固い大きな音の後に悠の声がして、私は閉じていた目を開いた。瞬間、飛び込んできた光景に出かかった悲鳴を済んでのところで押し留める。
「鉄パイプで殴っても立ってるなんて、ほんと怪物だな」
金髪の人が手に持った鉄パイプを真上に振りかざす。どくどくと心臓の音が煩かった。
「はるか……っ」
止めなきゃ、止めなきゃ、悠が死んじゃう、やだ、はるかっ
私には何もかもがスローモーションみたいで、ぎゅっと閉じた瞳の奥で涙が滲むのが分かった。振り下ろされた鉄パイプは、空気を切って鈍い音をたてる。けれど悠に当たった気配は無くて、私は恐る恐る目を開けた。
「道具なんか、使ってんじゃねぇよ」
そこには、床に落ちた鉄パイプを拾う悠と、床に倒れている金髪の人の姿があった。
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