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手首と足首に締め付けられるような痛みを感じて、私は目を覚ました。霞む意識の奥で、最後に聞いた含み笑いの声が甦る。背筋がぞくりとした。
「お、っと、お目覚めかな」
不鮮明な視界の中で見たことのない景色が私を囲んでいる。転がったドラム缶に何かの資材みたいな木の棒とか鉄パイプとか、廃工場っぽかったけど何だか現実離れしていてぴんとこなかった。
「ここ…どこ?」
思考回路が上手く働かなくて、きょろきょろと辺りを見渡す。手足を縛られて床に転がされていること以外、私が今どんな状態に置かれているのか全然分からなくて、怖い。
「ようこそ、桜坂美奈ちゃん」
「なん、で私の名前……」
床に寝ている状態から何とか起き上がりたくて体を捩る私の前に金髪の男の人が屈み込んで、私を見下ろした。
「いろいろ調べさせてもらったよ。そいつら、覚えてるかな?」
口角を歪めて笑いながら、その人は自分の背後を指差す。そこには、あの日私に声を掛けてきたピアスの人たちが居て、煙草を吸っていた。
「あの時の、」
「そう、君をここまで案内したのもあいつらだよ」
あの、声。そっか、聞いたことあると思ったのは、あの日の人たちだったから。でも、どうして私を連れ去ったんだろう。私、何にもしてない、よね……?
「君、ゆうの彼女なんだって?」
「え?」
困惑する私を置いて、その人は言葉を続けた。
「もう何人も偽物だったんだけど、君は間違いないって、そいつらが言うもんだからね」
あの“ゆう”が助けに入ったんだから間違いないってさ、とまるで他人事のように言った金髪の人は、何が可笑しいのか満面の笑みをたたえている。
「ちゃんと目立つように連れてきたからね、今頃ゆうの耳にも入ってるんじゃないかな」
つまり私は、悠を誘き出すための囮に選ばれたみたいだ。だけどこの人達は勘違いをしてる。
「私、あの、彼女なんかじゃありません」
「そんなこと言って逃げようとしても無駄だよ、」
「嘘じゃないです…っ」
ああ、本当だったらどれだけ嬉しいだろう。多分ここに居る誰よりも私が、本当であってほしいと思ってる。だけど悠は、私のことなんか見ていない。
「悠は、私のことなんか忘れてる。助けてくれたのだってきっとただの偶然で、だから、」
だから、悠はこんなとこ来ないよ。そう言ったはずだったのに、溢れだした涙で言えなかった。自分で言ったくせに胸が痛い。ぎらぎらした目付きで私を見下ろしてるこの人が怖い。いつの間にかたくさんの人数が集まってて、脅すみたいにわざと大きな声でがなり合ってる。怖くて、震えが止まらなかった。
「っざけんじゃねぇぞ!」
金髪の人の手が私の手首を掴んだ。縛られた紐が食い込む。
「やっ……放してっ」
怖い、いやだ、悠助けて……っ
「―――おい、」
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