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 N高のゆうの彼女だって自称する人が何人も居るらしいって、噂で聞いた。悠に恨みを持ってる人が居るみたいで、自称彼女が悠を誘き寄せるために何人も拉致されては嘘がばれて酷い目に遭わされるんだって、誰かが言ってた。

「やっぱり本物なんて居ないんだよ、偽物ばっかりでさ」

その話を聞いた優衣が呆れたみたいに溜め息を吐いた。

「うん……でも、可哀想」

「偽物ちゃんが?」

「だって、その子達もきっと悠のこと好きなんだよね」

好きって気持ちの表現方法をちょっと間違えちゃっただけで、何も酷いことされるようなことはしていないのに。

「お人好しだなぁ、美奈は」

「そうかなぁ」

そうだよ、と笑う優衣は、そんなとこもあたしが美奈のこと大好きな理由の1つなんだけどね、と言って私のおでこをぴんと弾いた。

「ひゃ、」

「さて、今日も張り切ってバイトに行くかなー」

美奈が無防備だからいけないんだよーと笑いながら、椅子から立ち上がってぐっと腕を伸ばした優衣は、鞄に荷物を詰めて帰り支度を始める。

「私、日誌書かなきゃだから、もうちょっと学校残るね」

「りょーかい、またね美奈」

「うん、バイト頑張ってね」

クラスに残ってた他の皆とも挨拶を交わして、最後にもう一度私に手を振ってから、優衣は教室を出ていった。いつかと同じ、ぱたぱたと廊下を走る音が遠ざかっていく。開けっぱなしの窓からは、校庭で頑張る部活の声が聞こえていた。悠の彼女のことも、悠のことが好きで嘘をついてしまった子たちのことも、私のことを誰、と言った悠のことも、ずっと頭から離れなくて、ぐるぐるして、心臓が苦しい。悩んでるだけじゃ何にも進まないって、分かってるのにどうしたら良いか分かんなくて、私は溜め息を吐いた。白紙のままの日誌が風に吹かれて、ぱらぱらとページが動く。書かなきゃと、私はシャーペンを握り直した。



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