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「みーなっ」
「ゎわっ、優衣かぁびっくりした」
高校に入ってから、彼のことは何も聞かなくなった。お母さんが音羽君は地元の男子校に進学したらしいって教えてくれただけで、後は何も知らない。
「ね、あれN高の制服だよね」
「え?あ、ほんとだ」
がらが悪いって評判の男子校は、時々こっちの高校の方までやって来て、挑発するみたいにたむろしてる。
「怖いよね、あたしS高で良かった」
「心配しなくてもN高には男子しか入れないよ」
「あー、そっか」
優衣と顔を見合わせて笑う、こんな瞬間がすごく大切。何度消そうとしても忘れられない想いを、この時だけは忘れられる。
「でもさ、知ってる?ゆうって人の噂」
「ううん、知らない」
「何か1年生なのにN高で1番強いらしいって、この前先輩が言ってた」
美奈はそういう噂に興味無いもんね、と言われてちょっと困った。興味が無いんじゃない。期待してた彼の噂じゃなくて、残念だっただけ。そんな風に考えてる時点で、私はまだ彼のことを諦められてない。
「そんな顔して、またあの人のこと考えてるんだ」
「え、やだ、そんなんじゃ…」
「美奈ってば一途、そんなとこが可愛いんだけどね」
優衣には敵わない。いつも私のこと解ってくれて、一緒に居てすごく楽になれる。
「あ、あたし帰んなきゃ、バイトに遅れる」
「優衣いってらっしゃい」
「うん、また明日ね」
ぱたぱたと廊下を走る音が遠ざかるのを聞きながら、放課後の部活のせいで人のほとんど居なくなった教室を見渡した。私も帰ろう。お母さんに頼まれた買い物もしなくちゃ。
「美奈ばいばーい」
あまり残ってなかったクラスメイトが帰り支度をして教室を出ようとする私に手を振ってくれた。
「ばいばい、」
私も手を振って教室を出る。買い物の為に降りる駅を確認しながら、私はいつもの駅に向かった。
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