君が見る世界の隅に、僕は居たくなかった
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生まれた瞬間からって言えば嘘になってしまうけど、私の彼への気持ちは幼馴染みとしてのそれを越えてたのは事実だった。不器用で誤解されやすい優しさを、誰よりも理解してるって思ってた。ずっと、好きだった。
幼稚園に通う前から、アパートのお隣さんでしかも同い年の私達は、親同士仲が良かったこともあってずっと一緒だった。誕生日は彼の方が早くて、だから小学生になったばかりの頃はよくお兄ちゃん風を吹かせてた。
『おれが、みなを守ってやるよ』
幼い頃の記憶は優しい。思えばこの頃からずっと、私は彼を想っていたのかもしれない。学年が上がるに連れて遊ぶことも話すことも少なくなっていったけど、たまに話すときはいつも私のことを見て聞いてくれた。無愛想で目付きが悪くて、相槌も短くしか打ってくれない彼をなんか怖いって言う子は多くて、私だけが彼の優しさを知ってるんだってちょっと得意だった。
『あ、おかえり』
『……おう』
アパートの前で出会して、よくそんな会話をしていた。滅多に見れない彼の笑顔を引き出そうと躍起になって提供する話題がことごとく外れても、彼が側に居てくれるその時間が私は何より好きだった。だけどそれも、中学に上がって私の家族が一軒家に引っ越してから無くなってしまった。
『美奈、音羽君はどこの高校に行くの?』
もうすぐ卒業って時に、お母さんが不意にそんなことを聞いてきた。知らなかった。でも知らないって言ったらもう彼との距離が埋まらなくなってしまうような気がして、同じとこじゃないかな、なんて嘯いた。廊下ですれ違う度に話しかけたくてどきどきして、だけど思いきり目を逸らされた。その度に涙が溢れるのを我慢して、学校から帰って部屋で泣いた。そうやって3年間過ごしてきたのに、私が彼の進路なんか知るわけ無い。高校に入学しても、そこに、彼の姿は無かった。
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