神様、どうか夢だけで
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「、ぃ―――おい…っ」
霞んだ意識の向こうで、聞き覚えのある声が聞こえた。嫌な夢を見ていた。気持ちの悪い汗が、べたべたと身体中にまとわりついている。
「ぅ、ん………なんだ……?」
目を開けると飛び込んできた照明の明るさに一瞬くらりとする。
「なんだ、じゃねぇよ。魘されてたぞ」
見上げると、呆れた顔で俺を見下ろす奴の顔が有った。
「あぁ……何でもねぇよ」
未だに夢の欠片が残っているような感覚がして眉間を押さえながらそう返したら、ぽすっと頭に軽い衝撃を受けた。大きくてごつごつしたあいつの手が、俺の髪を撫でる。
「嘘つけ、こんな真っ青なくせによ」
頭の上に有った手が汗で張り付いた前髪を払って、そのままするりと頬を撫でた。
「……仕方ねぇな、」
おもむろに立ち上がったあいつは、俺に背を向けて離れようとした。その背中が夢とぴったり重なって、俺は思わず手を伸ばす。
「何だ?」
夢の中では届かなかった手が、しっかりとあいつのくたびれたカッターを掴んだ。
「ぁ、いや……、っ、どこ、行くんだよ」
「お前甘いもん好きだろ、ラテでも飲んだら寝れるかと思って」
淹れてきてやるよ、とあいつは笑う。
「……いい、要らねぇ」
「あ?」
「いいから……ここに、居ろよ」
一瞬、きょとんと首を傾げたあいつに、頬が熱くなるのを感じた。次に俺を見たあいつは、溶けちまうんじゃないかってぐらい甘い顔で、微笑っていた。
「おう」
片手で顔を覆った俺を満足そうに見ながら、あいつはまた俺の髪を撫でる。
「今日は素直じゃねえか」
「ぅるせーよ」
あいつはくつくつと喉を震わせて一頻り笑った後、上から被さるように俺を抱き締めた。
「俺はどこにも行かねえよ」
「……おう」
甘い声が聞こえたから、今度はよく眠れそうだ。
神様、どうか夢だけで
(本物は、ああ、こんなにも近く甘く)