上手な幸せの見つけ方


「上手な幸せの見つけ方ぁ!?」

「そう、スクちゃん知ってる?」


 窓から見える空は生憎の雨で、眼前に広がる森も何だかいつもより小さく見える。晴れていれば溜まった洗濯物を洗って干してしまいたかったのに、まったく空気の読めない天気だ。任務の予定も無いし、暇を持て余したついでに、カッフェをねだりに来た彼へ例の質問をぶつけてみた。予想を裏切らず全力でリアクションしてくるスクアーロが、堪らなく好きだった。(この場合の“好き”は我らがボスのそれとは丸っきり性質が違うものなので、あしからず。変な誤解はよしてちょうだい。)

「暗殺部隊に幸せも何もねぇだろぉ」

「あらん、そうでもないんじゃない」

呆れ顔のスクアーロが両手をあげて降参のポーズをとった。やれやれオカマの考えることは分からない、と顔に書いてあるようだ。

「だってスクちゃんにはボスがいるでしょう?」

“途端に赤くなる顔”を見事に体現してくれた彼に、出来ることなら拍手を贈りたかったのだけど、両手は彼が繰り出した右ストレートを受け止めるために使ってしまった。照れ隠しなんて、可愛いことをするじゃないの。真っ赤な顔で睨んでも全く怖くないことを、恐らくこの子は分かっていないのだろう。

「てめ、ふざけんなぁ!」

「だって、ボスが言ってたわよ」

得意気に言ってあげたら、きょとんと呆けた顔をしてスクアーロが止まった。口をパクパク開けたり閉じたりする様はまるで金魚のようで、少し笑ったら思いきり睨まれた。

「……嘘だろぉ?」

くるくると目まぐるしく変わる表情が見ていて飽きない。不安そうに下がった語尾を裏切るようで申し訳無いが、嘘なんかではないのだ。



「ボス、上手な幸せの見つけ方ってご存知?」

「あ゙?」

「上手な幸せの見つけ方、よ」

「……んなもん、決まってんだろ」




 呆れた顔はスクアーロにそっくりだった。いや、スクアーロがボスにそっくりなのか。どちらにしろ2人は似ているということで、違うのは感情の表現が愚直すぎるほどに真っ直ぐなのか無器用なのかだけだ。
「ボスは何て言ったんだぁ?」

回想から半ば強引に引き離された、その根源の声を、頭の中でゆっくりとなぞる。この声ともう何年の付き合いになるだろうか。今でも少しは五月蝿いと思うけれど、そういえば出会った頃よりその回数は減った気がする。気づけば当たり前の一欠片として、世界を形成していた。

「あんたが今思ってることと同じだと思うわよ」

意味ありげに右目でウインクしてやったら、眉根に皺が寄った。紅潮したままの頬を隠しもせずに曝しているものだから、何だかボスが見たら怒りそうな光景だと思った。

「さ、そろそろベルがジェラートをねだりに来る頃かしら」

バァイと手を振って、未だに硬直しているスクアーロを談話室に残してきてしまった。さて、次は何をしてからかってやろうか。キッチンへ向かう足が無意識に軽くなった。




(( それは隣に君が居ること ))




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