出来損ないの喜劇は
どうやら何より悲劇的らしい


 この廃刀の御時世に唯一帯刀を許されて、新選組なんて大層な組織作って、所詮は田舎の芋侍の考えることなんて私には到底分からない。
だから、切腹の命が下ったから明日死ぬ、とかそんなこと。ただの喧嘩相手にわざわざ言いに来るなんておかしい。やっぱりこいつの考えてることはよく分からない。

「お上に言われたぐれぇじゃ、反発してやるんですがねィ」

涼しげな顔で、何でもないような声で、どうして自分の命の終わりをそんな風に割りきれてしまうんだろう。だって、もう誰にも会えなくなってしまうのに。

「近藤さんに泣かれたんじゃ仕方ねェや」

その近藤さんにも会えなくなるのに。そんな矛盾を抱えても、奴は目の色一つ変えないのだ。星が違っても奥深い根底の所は一緒だと思っていた。それでも武士道とかいうこいつらの美意識は最後まで理解できない。

「…土方コノヤローまで頭下げやがったんでィ」

明日の今頃はもう生きていないだろう人物が、今、目の前で息をしている。普通に喋って、夕陽に照らされて、瞬きする度に赤を煌めかせて。何か変なの。胸の辺りがもやもやする。

「姉さんとは別の所でしょうがねェ」

遠くを見つめるその赤の先に写るのは笑顔の優しげなあの人だろうか。私とは正反対な人。とても綺麗な、こいつの家族。

「だから、何アルか」

さすがに冷ややかな目で見ることは出来なかったけれど、ああ、こいつのこういう顔は苦手だ。心がグルグルして嫌になる。

「何でもねぇでさァ、」

ポーカーフェイスって本当に崩れないんだ。馬鹿やって笑ってればそれなりの顔なのに、こんな時くらい崩してしまえば良いのに。

「ただ、」

あれ、こいつこんなに大人っぽい顔してたっけ。

「お前に会えなくなるのだけが辛ェなァ」



 暖かい腕の中も、明日には冷たいただの人形になってしまうんだろうか。私を抱き締めるこの手で、明日こいつは死んでいくんだ。自らが望まない決断で、自らが慕う奴らのために。
濡れていく肩が冷たい。どうして泣くのさ。私だけ置いてけぼりにして、お前だけ覚悟決めていってしまうなんてそんなの狡い。去り際に気付かせていくなんて、そんなの。知らないままで、知らないふりをしたままで、終われるはずだったのに。

「お前は馬鹿ネ、大馬鹿アル」

しょっぱい、しょっぱい。頬を伝う涙にも気付かないくらい、心が泣いている。


「…すまねェ、神楽」

すがり付いた背中は思ってたよりずっと広くて逞しくて、私の大好きな匂いがした。



出来損ないの喜劇は
どうやら何より悲劇的らしい
(例えば目の前の恋の結末なんか)

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