キミとのカンケイ。




*ヘイコウカンケイ。の続き物
バーテンサンジ × 客ゾロ


都会の夜の喧騒は、大抵仕事帰りのサラリーマンか予備校通いの学生か、たむろする不良青年で成り立っている。その中で恐らく最も多くの割合を占めるサラリーマンの内、彼が一番美しいとサンジは思っていた。他の誰かに言ったらきっと冗談だろと笑い飛ばされてしまうであろうことを、彼はしかし本気で思っていたのだ。
容姿はもとい、その着飾らない気性も時折見せる柔らかな笑みも、サンジは彼の総てを好いていた。勿論、その感情は異性に抱くそれと同じではなかった。少なくともサンジはそう思っていた。ナミから見ればしかし最初から、サンジの彼に対する想いは普通異性に向けられるそれと同じであった。





彼を常連と呼べるようになって、もう半年が過ぎた。暦の上では春を迎えてしまって、外をちらつく雪ももうすぐ止むらしい。暖かな陽射しが待ち遠しくも感じるけれど、過ぎ行く季節に僅かな名残惜しさも感じる。冷たい空気にかじかんだ指先を息で暖めながら、ほんのり赤くなった鼻ではにかむ彼ももうすぐ見れなくなってしまう。出会った頃に感じた突き抜けるような男らしさとはまた違うその魅力が、サンジは好きだった。抑えきれなくなりそうな気持ちに気付かぬふりは、もう到底続けられそうに無い。だから、その前に。
冬が終わるこの時期に毎年訪れる甘い祝日。サンジは普段通りカクテルを作っていた。常連の女性客に頂いたチョコレートは、それ専用に持ってきていた紙袋を着実にいっぱいにしていった。

「サンジ君、久しぶり」

シックな店の雰囲気には些か相応しくない大きな笑顔を携えたナミは、華のように綻ばせた口元でまるで歌うように言った。

「今日バレンタインでしょ、だからこれ」

手に提げた小さなラッピングをその目で示した彼女は、その隣で拗ねたように俯く男へ視線を移して笑った。どうやらルフィはやきもちというものを妬いているらしい。

「あんたには、さっきあげたじゃない」

バレンタインの恋人特有の甘い空気にあてられて、サンジは苦笑した。それでも彼女の笑顔はやはり眩しい。

「ね、サンジ君、あいつは来たの」

彼女の言うあいつが誰のことで、茶化すように上げられた口角が何を意味するのか分からないほど、サンジは初ではなかった。試すような2人分の視線に居たたまれなくなって反論に開きかけた口はしかし、来客を告げるドアの開閉音に遮られた。

「…何だ、てめぇら来てたのかよ」
噂をすればなんとやらっていうのはどうやら本当のようだ。

「あらゾロ、仕事お疲れさま」

「おう、サンジがおめぇのこと待ってたんだぜ」

何でも無い風を装って彼に向けられたナミの笑みは、ルフィの一言によってたちまち呆れ顔に変わった。

「…そろそろ帰りましょ、ルフィ、あたし達お邪魔だわ」

また来るわねとサンジに目配せして、ぶつぶつ文句を言っているルフィを引きながら彼女は帰って行った。彼女達が去ってしまえば、店内に残る客は少ない。恋人同士静かにカクテルグラスを傾けていた大人なカップルも丁度、支払いを済ませて帰って行くところだった。

「…いつもの、」

接する時間が増えるにつれて馴れた無口も、無愛想な視線も、今日だけは何だか歯痒い。きっとナミがあんな風に笑ったからだ。この間ナミに指摘されて気付いたばかりの気持ちに、すぐ順応できるかと云うとそういうわけでも無いのである。

「今日も寒いですね、外は雪でしたか」

寒風吹きすさぶ中で冷えきった手を擦り合わせながら、外界では白かったであろうその息を吹き掛ける彼の、男っぽい節くれだった指に向いていた視線がサンジへ向く。赤い耳に小さく心臓が跳ねた。

「…ああ、そういえば降ってた」

こういう何か抜けてる所とか、可愛いのだけれど。

「はい、お待たせしました」

カウンターに乗せて滑らせたカクテルグラスが店内の照明に反射して煌めいた。彼の指がゆっくりとそれを取って、緩慢に飲み下していく。


「……サンジ、」

「え、」

「いや、何でもねぇ」


初めて、名前を呼ばれた。わざとらしく逸らされた視線が焦れったい。煩いこの心臓は、きっと自分以上に自分に素直なんだろう。俯いてしまった彼の表情は見えなかったけれど、寒さのせいだけじゃない耳の赤さが何かを物語っていた。



恋人達の日の夜は静かに更けていく。淡い金色のカクテルはサンジとゾロの真ん中できらきらと輝いていた。




キミとのカンケイ。

(ああ、もう少し素直になれたら)




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