そして君は笑った

*学パロ

 今日は一日中雨ですよと言った彼は、それを聞いた瞬間机に突っ伏した俺を怪訝そうに見つめた。何ですか気味の悪い、机が壊れますよ、とうとう馬鹿になりましたか、なんて敬語だからって暴言が許されるわけじゃないっての、リナリーってば彼氏のしつけがなってないさ。
って、いやいや、今はそんなこと気にしている場合じゃあない。一日中雨ってことは、あれだ、漸く想いが通じ合えた彼奴と初めて取り付けた約束は、雨のせいで台無しってことだ。彼奴の部活と俺の用事と、その上高校まで違うから予定合わせて会うのって思ったより大変なんだ。分かってねぇだろ、天気のばか野郎。
ずっと無視していたアレンが不貞腐れて、呆れるぐらいたくさんの昼御飯を黙々と平らげ始めてからお皿が綺麗になってしまうまで、俺はずっと放心状態を貫き通した。俺が今日をどれだけ楽しみにしてたか、きっと天気の神様は知らないんさ。桜が咲き始めたから、公園に行こうと思っていた。すごく綺麗に見える所を見付けたんだ。2人だけの秘密にしてしまおうって、女々しいのは分かってるけど、ああもしかして俺がこんな女々しいこと考えてたからいけんかったんか。早く行きますよってアレンの呆れ声に生返事をして、俺は深い深い溜め息を吐いた。



 2つ並んだ傘を打つ雨は強くなるばかりで、透明のビニール越しに見上げた空の灰色が馬鹿にしたみたいに俺のことを見下ろしていた。いい加減うざったい湿度も、歩く度に靴の中を濡らしていく雨水も、さっきから殆んど喋ってくれない隣の奴も、俺を憂鬱にさせるには十分すぎて、もう天気の神様を非難するのさえ億劫になってきた。隣で同じように雨をはじく黒い傘が、そこに在るのが夢みたいで嬉しくって、やっとこの場所を手に入れたんだって、幼馴染みだった頃とは違う恋人ってポジションに浮かれてみたりもしたけれど、やっぱり自信が無くなってきた。
ユウって案外押しに弱いとこあるし、両想いだってもしかして俺の勘違い?それだけは絶対嫌だけど、でもこんな沈黙ばっかで、俺ら良いんかな。
バシャバシャと水を跳ねさせながら道路を行き交う車のせいで、足元が本格的にびしょ濡れになってきた。ユウに気付かれないように(だってどうせまた馬鹿って言われるんだ)顔をしかめさせていたら、唐突におい、とか言われてちょっとびっくりした。

「こっち、来い」

何も言わないで目だけ向けたら、決まり悪そうにそっぽを向いて腕を引っ張られた。なに、ユウなんか顔赤いさ。そのままクルって俺とユウの場所が入れ替わって、やっとユウの行動の意味が分かった。わ、ちょい待って、ほっぺめちゃくちゃ熱い。横を通り過ぎる車が容赦なく水を散らして、ユウの足を濡らしていく。

「な−ユウ、」

こっち向いてくんないのは多分、ユウも顔赤いってことだよね。だって俺から辛うじて見える耳は真っ赤だし。

「まじ、好きさ−」

殴られた。



 雨上がりの空にかかった虹は、2人の頭上できらきらと輝いた。傘を閉じた俺は隣で同じように傘を閉じたユウを見て、それからまた虹に視線を戻した。

「綺麗さね」

じめじめした空気はまだ気持ち悪いし、濡れたズボンが足に引っ付いてうざったいけど、隣でユウがそうだなって微笑んでくれたから、最後にちょっとだけ雨に感謝して、ついでに外れた天気予報に心の中だけで万歳をした。


 


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