そして僕らは互いを祈る
あいつの血から出来たっていうその赤い輪を見る度に苛々する。細い両の足首でからからと揺れているそれが、あいつを強くしてその代わりに、これから先の長い時間を全て教団に縛り付けた。
「神田、怖い顔してどうしたの?」
あの時、こいつにそうさせる以外、道を無くしてしまったのは。
「……苛々する」
こいつの未来は、自由になるための余白は、俺が黒く塗り潰した。もっと強ければ、俺に守るだけの力があれば、こいつがイノセンスを飲み込んだりしなくても良かったかもしれないのに。
「神田?」
目の前で困ったように笑うこいつが、たまらなく愛しいと思う。仲間を何よりも大事にするこいつにとって、俺が特別な存在である訳が無いのに。
「兄さんがね、神田のこと呼んでるの」
「あぁ、」
「任務だって」
「―――今行く」
俺が強ければ、もっと強ければ、こいつの犠牲は小さくて済んだかもしれない。知らなくて良い辛さを、こいつは知ってしまった。
「ねぇ、神田」
後ろを付いてくる足音を、何年も聞き続けてきたそれを、失いたくないと思い始めたのはもうずっと昔のことで。
「あのね、……ちゃんと、帰ってきてね」
ぴたりと止まった足音につられて、俺の足も止まった。
「私、待ってるから」
遠ざかり始めた足音が、俺の鼓動を速める。今、何も言わないで行くのは、だめだと思った。ただ、あいつに触れたいと思った。
「リナ、」
振り返って呼んだ固有名詞が、こいつの動きを止めるには一番だと知っていた。短くなった髪が、小さく震えていて、思わずその華奢な体を抱き締める。
「っ、かん、だ……?」
「行ってくる」
素直には伝えられない気持ちの代わりに、帰還の約束を1つ。
「うん、行ってらっしゃい」
腕の中のこいつは、俺の腕に手を重ねて、とびきりの笑顔をくれた。
そして僕らは互いを祈る(どうか君に、平凡な世界を)