同情するなら愛をくれ
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神田が怪我して帰ってくるのはいつものことだ。実際、任務に行って怪我せずに帰ってこれるのは、情報がハズレた時か元帥ぐらいしか居ないのだから、当たり前ではあった。けれど彼は自分の身体をよく解っていて、他の団員より無茶をする。
『神田は分かってません』
昔ラビにそう愚痴をこぼしたら、お前も十分そうだと言って笑われた。
『ま、ユウはちっと異常だけどな』
教団に帰れば心配してくれる人がいる。誰よりも彼女が悲しい顔をするのに。
『素直じゃねぇんさ、あいつもリナリーも』
大丈夫だから心配するなと言ってしまえれば、もっと身体を大事にしてと願ってしまえれば、少しは違うかもしれない。それだけの影響力が互いにはあるのだ。それに自分達が気付かないから、俺達がやきもきしなければならないんだとラビは満更でも無さそうに呟いた。
「てめ、放せよ!」
「神田のわからずや!」
珍しく、2人が喧嘩していた。いつもは賑やかな食堂が、今はこの2人を見つめて静まり返っている。仲裁に入ったラビは神田の睨みに早々に挫折したようで、隅の方で小さくなっていた。
「あれ、どうしたんですか」
涙目のラビにそっと訊ねてみたら、俺のせいなんさと力無い返答が返ってきた。
「リナリーに素直になれって言ったら、喧嘩になっちまった」
深い溜め息が彼の口から溢れる。件の2人は言い合いながら食堂から出ていってしまったようだった。
「ユウに無茶するなってリナリーが言ったら、案の定あれさ」
素直に受け取ればいいものを、あいつ変なとこ頑固だから気恥ずかしかったんだろうぜ、初なこった。吐き捨てるようにそう言って、ラビは大袈裟に肩を竦めて見せた。
「あーあ、でも俺等、失恋だな」
「……ラビだけでしょう」
精一杯張った虚栄を、ラビは一笑に伏してお前もなかなか頑固だよなと言った。
「大体、ラビが余計なこと言うからですよ」
「だってあんだけ見せ付けられるとは思わなかったんさ」
まさか、という顔でラビは片目を見開く。リナリーの“世界”に、神田が大部分を占めているのは明らかだった。そうでなければあんな風に、無理に自分の意見を押し付けたりはしない。彼女はそういう性格だった。呆れたように笑いながら、ラビは続けた。
「俺、恋敵にみすみす助け船出しちまった」
半ば諦めがついたような口調だった。仕方無い、あの2人なら。僕が入り込む隙間なんて無かったじゃないか。神田もリナリーのことを想っているのは、最初から明白だった。
それでもやっぱりむしゃくしゃするから、ラビの襟首を掴んで鍛錬場へ大股に歩き出した。
同情するなら愛をくれ(しばらくは神田なんか、視界に入れてやるもんか!)