【マギ/マスルール ※女主】

シンドリアには他国から出向に来ている七人将だけではなく食客というものが少なからず存在していた。

そんな中でもシンさんが一際気にかけている女がいる。

俺がシンさんに仕えるずっと前からシンさんの傍にいる彼女のことを、俺はきっとほとんど知らない。

「何してるんですか」

中庭に目立つ金髪を見つけて声をかけると、芝生に座り込んでいた彼女が俺を振り向く。

「あ、おはようマスルール」

にっこりと柔らかな微笑みを浮かべて俺を見上げる水色の眸に、俺はいつも視線を奪われた。

「天気がいいから花でも植えようかと思って」

その手に握られたピンク色の花ほど彼女の美しさを際立たせるものはないだろう。

絵に描いたような美人である彼女のことを邪な目で見る輩は沢山いた。

「買ってきたんすか?」

その隣にしゃがみ込んでそう尋ねると、花に興味を持たれたことが嬉しいのか彼女は一層笑みを明るくして喋りだす。

「そう!今朝市場で買ってきたの。一緒に植える?」

きっと彼女はこうやって誰彼構わず誘うのだろう。

人懐っこいその笑みにもちろん俺は惹かれていたが、同時に憎らしくもあった。

「いえ、俺がやると枯れそうなんで」

俺の台詞に彼女は少し目を丸くして、また笑う。

「そう」

やり方だけ教えてくれと尋ねると、彼女は鉢から取り出す作業から丁寧に俺に花を植える工程を説明し始める。

きっとこの知識が役に立つことなど一生ないだろうと、思いながら俺の視線は花ではなく常に彼女に向いていた。

「マスルール?」

無防備に首を傾げる彼女のことを何度押し倒してやりたいと思っただろう。

「聞いてますよ」

俺の視線を不思議に思いながらも、それでも彼女が俺の気持ちに気付くことは決してないのだ。

雲ひとつないこの青空の下で凛と咲く色とりどりの花に囲まれて、手を泥だらけにしながら屈託なく彼女は笑う。

その笑顔を壊すたった一言の台詞を、俺はもう何年も胸の中に閉じ込め続けている。




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