こんな調子で一週間。
黒板には眠くなる暗号のような数式がズラリと並び、解説をする数学教師の声さえも子守唄のように聞こえる。
あんなに楽しみにしていた放課後の部活も、何となく気分が重くなってしまった。
「はぁ・・・」
ため息がつい出る。
いつもだったら早く授業が終って部活の時間にならないかと時計を一分毎くらいにチェックするのに。
だめだ、だめだ。
思って首を振った。
大好きなバスケをこんなことで嫌いになりたくなんてない。
そうだっ、怖い人だと決め付けるからいけないんだ。
ちゃんと話しかけてみれば・・!
「<名字>、何を百面相してるんだ」
すると急に教師から声を掛けられる。
「ふぁい?」
寝てた訳でもないのにあてられるとは思っていなくて、間の抜けた声を上げてしまった。
クラスから笑いの声が上がり視線は机の上へと移る。
・・・恥ずかしい。
「俺の話を聞いてたか?問5を解いてみろ」
えぇっ。そんな理不尽だ。
急いで教科書の問5を見る。
幸いそれは昨日勉強したのと類似している問題だった。
「えっと・・a=8\21,b=0・・・ですか?」
そう答えて恐る恐る先生を見るとどうやら間違ってはいなかったらしい、怒った顔はしていなかった。
「う〜ん。まぁ・・正解だな」
苦笑しながら言うこの先生はそんなに苦手ではない。
英語の先生は恐ろしくて、授業中ぼーっとなんてしてられないからだ。
黒板に向き直った先生にほっとしてさっきの続きを考え出す。
って、何考えてたんだっけ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ、そうそう。
三井先輩克服大作戦だ。
こうして僕の激闘(?)の日々が始まった。


* * *


まずは挨拶が基本だ。
放課後になり体育館に向かうとやっぱりもう三井先輩は来ている。
ブランクを埋める為に熱心なのだろう。
ほら、いい人じゃないか。
なんて言い聞かせて、体育館に足を踏み入れる。
「・・・お疲れ様です」
うん。自分でも分かった。
聞こえる訳がない。
先輩のドリブルの音でいとも容易く掻き消されてしまった。
よほど熱中してるのか僕の存在にも気付いてくれない。
だめだ、しっかりしなくては。
大きく息を吸ってー、吐いてー。
・・あれ。吐いちゃだめじゃん。
もう一回吸ってー。
「おっ!」
お疲れ様ですと大きな声を出したが、自分の声の余りの大きさに驚いて瞬時に恥ずかしくなった。
先輩はびくっとして僕の方を見る。
足がつい体育館の外に向きそうになったが、はっとして考え直す。
逃げちゃだめだ。
「おっ、お、お」
ついには怪訝そうな顔をされた。
「オレンジジュースは好きですかっ!?」
ばかだ。
お疲れ様ですを言う方が楽なのに、何故会話になってしまう疑問形にしたんだ。
「あ、あぁ・・」
目を真ん丸にした先輩はどもりながらそう答えた。
沈黙になるのは言うまでもない。
先輩は僕を珍獣でも見るような目で見てくる。
少なくとも、僕にはそう見える。
そりゃあそうだろう。いきなり体育館に入って来たと思ったらオレンジジュースは好きですか?だ。
僕だって変な奴だと思う。
「・・ぼ、僕も好きですっ」
言ってダッシュで体育館を後にした。
顔が火が出てるんじゃないかと思うほど熱い。
三井先輩克服大作戦その@、失敗。



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