HRも終わり一番乗りで体育館に行った。
つもりだった。
絶対に僕が一番だと思ったのに、そこには長身の男の人が一人。
その手にはバスケットボールがすっぽりと収まっていた。
「おっきい手ですね〜っ。あ、ボール転がってました?すみません」
言って見覚えのないその人からバスケットボールを貰おうと手を伸ばした。
が、渡してくれない。
「何だ、お前?」
「へ?」
近くで顔を見ると結構格好いい人だった。
あぁこの人の部ではこの人ファンが多いんだろうなぁ、なんて思ったり。
体格からしてスポーツしてないとは思えないし。
「あぁ、僕ですか?僕はバスケ部の・・・あっ」
数メートル先に光るものを見つけ、しゅびっとそこにしゃがみ込む。
こういう時だけは素早い。あと、逃げる時とか。
「見て下さい!百円が落ちてましたよ〜。・・・もしかして貴方のですか?」
折角見つけたのに、と思いつつも本人を目の前にして百円を貰うなんてことは流石にしない。
惜しみながらも百円を差し出すとその人は呆気に取られた顔をした。
「? 違うんですか?だったら僕貰っちゃいますけど」
お、臨時収入?なんて思ってついぱぁっと笑顔になる。
その人が何も答えないので、いそいそとポケットにしまった。
「貰っちゃいました。あとで自分のとか言われても返しませんからね」
ふふっと上機嫌に笑う。
「ってかお前誰だっての!」
わっ。怒らせてしまったのだろうか。
びくっとした僕はやっぱりこの人の持ち物だったのかと一度しまった百円を取り出した。
「だって何も言わないんですもんっ。
すみません、人のは盗りません。だから怒らないで下さい」
「はぁ!?」
「うわっ」
更に大きな声で怒鳴られ、僕はパニック寸前だ。
何だろう、僕、何か悪いことをしたのかな?
百円ぐらいで怒鳴るなんて、なんて怖い人なんだろう。
うりゅ、とつい涙が滲んできた。
「なっ!何で泣くんだよ!?」
そこで視界の端に真っ赤な頭が映った。
最初は怖いと思っていたが優しい人だと分かってから、僕の仲間リストに加わった一年生。
桜木 花道だ。
「さっ桜木!」
あぁ救世主だとその名を呼ぶと、桜木は僕を見て驚いた顔をした。
「あぁ!<名字>さん泣かしただろっ!」
ちょっと助けられ方が男としては恥ずかしいが、これ以上怖い目に遭うよりは良い。
桜木は僕とその人の間に入って、何だか言い合いをしている。
「お、俺じゃねぇよ!勝手にこいつが泣き出しただけだ!」
「嘘付けっ!」
流石桜木。
見ず知らずの怖い人相手によくそんな口が利ける。
見習いたいけど・・無理だなぁ・・・・。
「あら、早いわね」
すると彩子ちゃんの声が聞こえた。
顔を上げるともう部活着になっている彩子ちゃんがいた。
仲間リストその2が来て、僕の心はそれなりに平常心を取り戻しつつあった。
「こら桜木っ!何ケンカしてるの!三井先輩も!」
・・・へ?
今、何とおっしゃいました?
「え、え、え、え。三井先輩ってあの三井 寿?」
今の僕の心情を理解してるのはここではそう僕だけ。
ひとーつ。元不良君に馴れ馴れしくも話しかけてしまったー。
ふたーつ。これから一緒に部活動をしていくというのに桜木をけしかけてしまったー。
みーっつ。
これから一緒に、部活動をしていく?
「う、嘘だぁ!」
こんなに怖い人と一緒に部活動なんで、出来る訳がない。
彩子ちゃん、いやこの際あまり信憑性のない(失礼)桜木の言葉でも良い。
誰か嘘だと言ってくれ。



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