手に取った本を再び棚に戻す。 赤い絨毯の敷かれた天井の高いこの部屋は、中学にしては大規模な図書館である。 昼休みはここを訪れることが日課となっている俺は 歴史書の並ぶ本棚の前で次に読む本を選んでいた。 窓際まで辿り着いたところで、ふと視界の端に見知った姿が映った。 中庭で弁当を広げているのは仁王と<名字>だ。 その傍にいつも<名字>といる筈の幸村がいないことを不思議に思い、 そういえば朝に臨時委員会の呼び出しがあったことを思い出した。 いつもよりも些か幼い雰囲気の<名字>を見つめる。 必要以上に仁王と近い距離にいる<名字>は、仁王の弁当のおかずを一つ食べさせて貰っていた。 笑みを浮べた仁王が<名字>の頭を撫でる。 <名字>はまるで犬や猫のようにその掌に頭を寄せた。 このような光景を目にするのは初めてではない。 中学に上がる前の<名字>は俺に対してもそのような態度を取っていた。 中学に上がってからめっきり大人しくなった<名字>を成長したのだと思っていたが、 どうやらそうではないらしいことを一年ほど前から俺は気付いていた。 幸村相手に、仁王相手に、<名字>がああやって甘える様子を度々見掛ける。 初めは驚きこそしたもののそう気に留めることはなかった。 それが<名字>が俺を好きであるが故のことであるなら、尚更。 目の前にあった本を適当に抜き取り、窓の外に一瞥もくれず中央の机へと向う。 一つ、重いため息を吐いた。 |