真田、幸村の共通の幼馴染であるA組の<名字><名前>と、うちのクラスの仁王は何故だか仲が良い。 二時間目休みの今も<名字>はうちのクラスにやって来て 廊下の入り口で仁王と楽しげに会話をしていた。 友達と呼ぶには親密過ぎるような仕草や態度だが 以前<名字>が幸村といたのを目撃した時もそうであったのできっと<名字>はそういう奴なのだろう。 机に着いて手持ち無沙汰内に風船ガムを膨らましながら横目で二人を眺める。 すると<名字>が急に目を小さく見開き、くっついていた仁王から一歩離れた。 仁王は初め不思議そうな顔をしていたが <名字>が何かを見つけた方に視線を遣ってあぁ、と納得したように視線を<名字>に戻す。 何だ? 再び仁王と会話を始めた<名字>は急に大人しくなって、 先ほどまでの無邪気な笑みを大人びたそれに変えた。 恐らく<名字>の変化の原因が廊下を通った時、膨らませていた風船ガムが音を立てて割れた。 うちの指定の制服がまるで会社員のスーツであるように見えるほど中三らしくない男が 颯爽と<名字>の後ろを通り過ぎる。 <名字>の笑顔は緊張したように引き攣っていた。 まず初めに思ったのは<名字>がその男――真田を苦手であるのかということであった。 しかし俺はすぐさまそれが大きな間違いであることを知る。 真田の消えた方向にそっと視線を遣る<名字>のその表情は 色ボケした女子のそれと全く同じであったのだ。 幼馴染で男同士で、しかも相手があの真田かよ・・・。 報われねぇなぁとまたぷくりと風船ガムを膨らませる。 視界を埋め尽くしていく薄緑色のガムに、ふっと<名字>の顔が消えた。 |