幼馴染と呼べるのかは分からないが小学校の頃から親しかった友人が頬を赤くしながら微笑みを浮かべ、夕暮れの教室でまず俺に謝った。
どうしたのかと問い掛けるとゆっくりとその唇が動く。
「もう・・真田の隣にいるのが、その、辛くて」
そう告げられた時、俺は友人の――<名字>の笑みが強張っていることに気付いた。
「友達としてじゃなくて、・・好きなんだ、ごめん」
再び謝った<名字>の言葉を俺は暫く理解することが出来なかった。
話の流れからしててっきり俺から離れると言うのかと予想していたのだ。
だから自分の胸に最初に湧いたのは安堵だった。
「何故、謝る」
俺が問うと<名字>は外していた視線を俺に向けて微笑う。
その笑顔が痛々しい。
本当は笑っていないことなど分かりきっているのに。
「だって、ほら・・気持ち悪いだろ?」
<名字>の右手が自分の髪をくしゃりと掴む。
混乱している時にする<名字>の癖だ。
傷付いたような泣きそうな酷い笑顔を、何故だか、俺は今までで一番愛おしいと思った。
「だとしたら俺がお前に抱く気持ちも
お前にとっては気持ちの悪いものなのか?」
<名字>の目が大きく見開かれる。
その右手がぱたりと落ちた。
<名字>が右手の人差し指の爪で右手の親指を擦る。
これもまた、混乱している時の<名字>の癖だった。
そんな些細な癖まで知っている。
少なくともこの学校の誰よりも俺は<名字>のことを見て来たつもりだ。
<名字>が俺を好きであることさえ、とうの昔に気付いていたほどに。



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