いつもよりも随分勢いの落ちたサーブがまたしても白線の外側に落ちた。 その心ここにあらずといった顔に視線を遣っても目は合わない。 「どうしたんですか?」 声を掛けると漸く仁王君は対戦相手である私の方を見た。 「あーいや、何でもない」 そう言って視線を逸らす仁王君はどう見ても様子がおかしい。 朝練の時はいつも通りであったのに、この放課後までの間に何かあったのだろうか。 ポケットから球を出して仁王君はラケットを構える。 集中しているとはとても思えない。 「休憩しましょうか」 提案すると仁王君はちょっとだけ目を丸くして罰の悪そうに頷いた。 「悪いの」 腰を下ろしたベンチで水分補給をしながら仁王君が呟くように謝る。 「いえ。何かありましたか?」 先ほどと同じ質問ではあったが、仁王君はしばらく考えた後に予想外の名前を出した。 「幸村ってさ」 その視線を追うと我が部の部長はいつものように部員の練習相手をしている。 さてはテニスのことで何か言われたのかと、一瞬の予想はすぐに間違いだとわかった。 「男が好きなんかのう」 「はぁ?」 こっちは真剣に聞いているのに、と怒ろうとしたところで仁王君がちっとも笑っていないことに気付く。 ただ幸村君を見つめるその横顔はまるで。 「仁王君、もしかして幸村君のことが好きなんですか?」 私を勢いよく振り返った仁王君はこの上ないほど顔を歪めて低い声を出した。 「んなわけないじゃろ」 さっきまでの真剣な表情とは一変して、途端にふざけたような顔になる。 「幸村と付き合ってみ、今の真田以上に散々こき使われて奴隷にされるのが目に見えちょる」 嫌そうに舌を出す仁王君にそこまで言わなくても、と口を挟むとつらつらと幸村君の悪口を言い始める。 「ちょ、ちょっと仁王君・・」 冗談だとは言え誰かに聞かれでもしたらまずいと、慌てる私から視線を外した仁王君はふっと先ほどの顔に戻った。 「・・俺には荷が重過ぎるわ」 やはり幸村君と何かあったのだろう。 しかし遠くを見つめるその綺麗な横顔が思うところは私にはさっぱり解らない。 仁王君は否定したが、ぼんやりと物思いに耽るその様子はそれでも恋をしているかのようだと、決して口には出さぬことを思った。 |