色素の薄い赤茶色の髪を両手で掻き上げる青年の赤い眸は、真っ直ぐにこっちを見ていた。
射抜くような鋭さと熱を孕んだその眸に吸い込まれそうになる。
清楚な服から伸びる真っ白でしなやかな肢体を惜しげもなく晒して、
桜色の唇を薄く開く彼はぞっとするほど美しい。
人の行き交う大通りの上、3mの平らなパネルに嵌めこまれた彼はそれでも確かにそこに在った。


「相変わらず綺麗やなぁ。姫さん」
放課後になったばかりの部室で
今女子中高生に人気の雑誌であるLEANOの表紙を眺めながら忍足先輩がそう声を漏らす。
「カメラマンの腕がいいんだろ」
ソファに座る忍足先輩の後ろから宍戸先輩がその表紙を覗き込んだ。
「宍戸、姫さんの顔ちゃんと見たことあるんか?
 近付けば近付くほど別嬪さんやで」
わざとらしく目を丸くして忍足先輩が宍戸先輩を振り返る。
宍戸先輩は呆れたように小さく息を吐き出した。
「んな近付いたことなんかねぇよ」
そして興味なさそうに自分のロッカーへ移動する宍戸先輩に忍足先輩が何かを言い足して、雑誌へと視線を戻した。
「ちわー」
するとガチャと部室の扉が開く。
聞こえた声に俺はひとつ心臓を鳴らした。
「侑士なに見てんの?って、それLEANOじゃん!」
忍足先輩に歩み寄った彼は雑誌を見付けて声を上げる。
恥ずかしげに頬を染めて忍足先輩から雑誌を取り上げ、彼は表紙を隠すように背中に回した。
「今更隠すもんでもないで?
 綺麗やなぁって見てたんやから」
忍足先輩の言葉に彼は更に頬を赤くした。
その戸惑った様子はとてもその表紙の怜悧さとは結び付かない。
<名字><名前>。
LEANOの表紙を飾るほどの中学生トップモデルである彼は、同時にこの氷帝学園テニス部のレギュラーでもあった。
「カメラマンが巧いんだって」
謙遜でもなく本気で言ってる彼の後ろで、着替え途中の宍戸先輩がほらなと呟く。
言う宍戸先輩も<名字>先輩が容姿端麗であることは知っている。
ただ認めたくないだけなのだ。
それが俺と同じ理由であるのかは知る由もないが。
「んなことないって、なぁ?
 お前もそう思うやろ日吉」
不意に名を呼ばれて顔を上げる。
靴紐を通していた手を止めて、俺は無表情のまま忍足先輩を見やった。
「・・そうですね」
右斜め前から視線を感じる。
俺は決してその方向を見ることが出来なかった。
聞く前からわかっていたかのように、忍足先輩は俺の返事を使ってまた同じようなやりとりを宍戸先輩と繰り返す。
靴紐を掴んだままの俺の指先がやっと動いたのは、何気ないその視線を感じなくなってからだった。



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