<名字><名前>はもう二年前から芥川慈郎とできている。 俺が<名前>と知り合ったのは一年時のクラス内での自己紹介であったから、入学式の時からであるらしい二人は俺が知り合う前から半ばそういう関係であった。 だからだろうか、この二人の目に余るほどの青春具合にも慣れてしまった。 「んなガキみてぇな真似するかよッ」 昼休みの屋上、お馴染みのテニス部のメンバーで弁当を広げているそこで相変わらず宍戸にどっちの意味でか分からないラブ光線を送っている鳳が卵焼きを食べさそうとしていた。 片想いであるらしいここでは宍戸はそれを一度も受け入れることはない。 「はいジローちゃん」 しかし宍戸がそう声を上げた直後、視界に<名前>がジローに向かってウインナーを差し出しているのが映った。 「マジで!?くれんの?」 早弁でもしたのかいつもの弁当もここに持って来ず、購買で買って来たパンすら食べ終えていたジローはぱぁっと表情を明るくする。 犬さながらに口を大きく開けてそれを頬張るジローはまるで餌付けされているようだ。 「んーうまっ」 呆れた顔をしている宍戸もこの二人に関してはもう諦めているのだろう。 鳳に至っては羨ましそうな顔をしているし、何だこの部にはそういう奴が多いのかと笑えないその台詞は胸の内だけにしておいた。 「えッこれ<名前>が作ってんの?」 すげぇと褒めるジローに<名前>は生白い頬を赤くする。 「でもほとんど冷凍食品だよ」 言って照れたように笑う<名前>の顔を、おかずを口に運びながら眺める。 <名前>がこんな顔をするようになったのは最近の話だ。 二年の夏頃まで、<名前>の笑顔は無理に作ったような酷いものだった。 それに気付いている奴はあまり多くないようだったが一番近くで見ていたのだ、気付かないはずがない。 しかし悩み事があるのかと尋ねても何も答えず、いつでも力になると励ましても曖昧に笑顔を返されるだけだった。 そんな<名前>を変えたのはやはりジローだったのだろう。 吹っ切れたように明るくなった<名前>とジローの間に何があったのかは知らない。 「岳人。お前箸止まってんぞ」 不意に声を掛けられてはっと視線を<名前>から外す。 見ると宍戸が怪訝な顔をして俺を見ていた。 「あぁ、ぼーっとしてた」 そう答えながら箸で自分の弁当箱の中のトマトを摘む。 それを口に運びながらもやはり俺の視線は<名前>とジローに向けられていた。 眩しい笑顔を浮かべながら優しい眼差しで<名前>はジローを見つめている。 幸せそうなその顔は自分がさせたかったのだと。 それでも<名前>が幸せであるならそれでいいのだと。 何度も繰り返した台詞を頭の中で呟きながら、俺は味のしないトマトを飲み下した。 |