キラキラした木漏れ陽の中で、彼はとても気持ち良さそうに小さな寝息を立てて眠っていた。 今日は中等部の入学式でこれからすぐに始まるっていうのに、卸したての制服を乾いた草の上に寝転ばせている彼はそんな事などまるで気にしていないようだ。 起こした方が良いのだろうかとその寝顔の隣にしゃがみ込んで穏やかな顔を覗き込んだ。 「<名前>ーっ、何処にいるのー?」 草むらの向こう側で母親の声がする。 僕もこのままサボってしまおうか。 そんな事を思って彼の隣に寝転がった。 ゆっくりと目を閉じたそこは陽だまりの匂いだった。 あぁこのまま消えてしまっても良いかもしれない。 初めて寝転ぶ他人の横の地べたの上は、もう何年も使っている自分のベッドよりもずっと居心地が良かった。 風で葉が揺れるたびにちかっと覗く太陽に視界が光る。 既に夢の中のようで、夢でも良いからと僕はそっと目を閉じた。 夢でも良いから――せめてどうか醒めない夢で。 * * * 緑の匂いの中で目を覚ますと隣に温もりを感じた。 ぼんやりする頭で何だろうと首を横に傾けると、さらさらな真っ黒の髪が視界に入る。 驚いて飛び上った時には俺の頭は完全に覚めていた。 聞こえない寝息に真っ白な頬。 一瞬死んでいるのかとその胸に耳を押し当てたほどだ。 心臓が動いているのを確認して安堵のため息を吐き、俺はそのままその寝顔を見下ろした。 人形のように綺麗な顔をしている。 男子の制服を着ているのがもったいないくらいだっだ。 体育館の方からマイクで何かを喋っている声が聞こえるということは、きっと入学式はもう始まってしまっているのだろう。 母さんに怒られるなぁ・・といつもより焦りを抱いていないのは今日は一人じゃないからだろうか。 さてどうしようと考え始めたところでゆっくりと彼の瞼が開いた。 「あ、おはよう」 ついそんな声を掛けると彼は眠そうな目を俺に向ける。 「ん・・おはよう・・?」 状況を理解し切れていないのか呟くように言葉を返す彼はあまりにも無防備で可愛らしかった。 だからだろうか、俺は彼に向いて胡坐を掻いたままゆっくりと上体を前に倒した。 ふわりと唇に柔らかいものが触れる。 そっと離すと彼は目大きく見開いていて、どうやら意識は覚醒したようである。 「このまま全部サボっちゃおうかぁ」 そう提案して笑う俺に彼はまだ驚きの抜けない表情で顔を赤くする。 あぁ本当に可愛い。 後から考えればそれは一目惚れというものだったのだろう。 ただ俺はこの木陰に突如現れた彼に、恋をしたのだ。 |