目の前で他愛ない話をしながらコンビニの蕎麦をすする<名字>は一体何を思って毎日屋上にやってくるのだろう。 昼食を共にすることが当たり前になっていることに不満があるけではないが、何せ俺と<名字>は2年以上も同じクラスであったにもかかわらず一度も話したことがなかったのだ。 「え?」 疑問をそのまま言葉にすると<名字>は目を丸くして箸を止めた。 くるりと眸を半周させて考えるような動作をしたあと、困ったように微笑む。 「屋上に来たら手塚がいて、一緒に食べたら楽しかったからだけど・・・それじゃだめ?」 告げられたそれは予想通りであったのに俺の胸の内には変わらない不可解さが蠢いていた。 「そうか」 弁当の唐揚げに箸を伸ばす。 <名字>から視線を逸らすと沈黙が流れた。 おかしなことを聞いただろうか、だがそう思うのも不思議ではないはずだ。 楽しかったと<名字>は言ったが<名字>に俺と仲良くなる気はないように思える。 「・・そう言うけどさ、」 思っていたことが顔に出たのかため息と共に<名字>が沈黙を破った。 顔を上げると<名字>は呆れたような苛立ったような顔をして、笑っている。 「それ以外の答えが欲しい訳でもないんだろ?」 目を見張った俺を<名字>はただ見据えていた。 真っ黒な眸は俺を咎めているようだ。 妙な居心地の悪さを抱いたのは何故だろうか。 後ろめたいことなどある訳もないのに。 「あ、唐揚げ1個もーらい」 突然いつもの調子に戻った<名字>は、嬉々として俺の弁当から唐揚げを掠め取る。 漸く視線を伏せることが出来た俺の鼓動が痛いほどに胸を打つ。 次の授業の話を始めた<名字>の顔を、俺はしばらく見ることが出来なかった。 |