休日の部活終わりの俺の家で <名前>はごろりと仰向けにリビングの床に転がり掌を翳していた。 「何しとんじゃ?」 その横のソファの上で携帯を弄っていた俺は さっきからぼんやりと自分の掌を眺める<名前>にそう声を掛ける。 「僕って生命線短いよね」 どうやら自分の手相を見ていたらしい。 よねとか言われてもそんなん知らんと思いつつも携帯を閉じて<名前>の掌を取った。 「ほんまじゃ。短いのう」 ぐいっと少々乱暴に手首を曲げてその手相を見ると 確かに生命線は親指の付け根の高さまでしかない。 「仁王は長いよね」 さらりと<名前>がそういうものだから、そうじゃなとつい答えそうになった。 自分の生命線の長さなど知らない。 掌を広げて左手に視線を落とすと<名字>の言う通りそれは手首まで続いていた。 「よう知っとうの」 <名前>のそれは軽くストーカー染みた発言であったが <名前>とはそれなりに長く深い付き合いだ、知っていてもおかしくはないのだろう。 一般的には。 「ってことは僕のが仁王より早く死ぬんだね」 悲観的に言う訳でもなく、いつもの自分以外何も目に入っていないような表情で<名前>は言う。 「たかが手相じゃろ」 仮に俺より早く<名前>が死んだとしても俺はきっと今まで通り生きていけるだろう。 それは<名前>も同じことだと思うが。 「なに感傷的になっとう」 <名前>が可笑しなことを言うのは今に始まったことではないが 二十分近くも自分の掌を眺めてそんなことを思っていたなら異常である。 「仁王が構ってくれないから」 ふっと嘲笑った<名前>のそれは嘘だ。 何を思っていたのか、少し気になりはしたが どうせ俺にはどうでも良いことだと手を<名前>に伸ばした。 「じゃあほら、構ってやるぜよ」 寝転んだまま俺を見上げて<名前>は笑みを薄くした。 本当は? 本当は何が欲しい。 しかし俺の胸に飛び込んできた<名前>はお得意の高慢な笑みを浮かべた。 「さっき携帯弄ってた指、ほとんど動いてなかったよ」 言ったくせに俺の反応を見ることもせず、<名前>は俺の首筋にかぷりと小さく歯を立てる。 「考え事してたんじゃ」 何気なく言った筈のそれは言い訳のように聞こえた。 だったらお前もずっと俺のこと見てたんじゃねぇかと、思ったそれはまた口に出さずに。 「ここカッターで切ったら長くなるんじゃないと?」 首筋を吸われながら<名前>の掌を取り生命線を指先でなぞる。 「じゃあ仁王が自分の手の皮剥いで生命線短くしてよ」 「何でじゃ」 意地が悪いことを言ったのは俺だが、イズミのそれは冗談に聞こえない。 「・・別に長生きしたい訳じゃないし」 呟いて<名前>は俺の口を塞いだ。 至近距離の<名前>の顔はぼやけていてどんな顔をしているか分からない。 まさか一緒に死にたいとか言うんじゃないじゃろな・・・。 それは勘弁だとばかりに目を瞑り、頬に手を添えて<名前>のキスに答える。 こんな風に、あるのは気軽な快楽でいい。 ――それでいい。 |