船の壁に寄りかかってしゃがみながら
ぼんやりと海を眺めるその横顔が余りにも綺麗であったから。
幼げな普段の笑顔を消し去って悩ましい眼差しで物思いに耽る様子に胸が震えてしまったから。
すぐ傍まで歩み寄った俺に気付くこともしなかったそいつの顔を覗き込むようにして、
俺はその唇に初めて触れた。
途端に見開かれるその眸を唇を触れさせたままぼやける距離で眺め、そっと唇を離す。
驚きの表情を消し去らないままにそいつは沸騰したように顔を赤くさせる。
そして漸く眸に俺を映した。
「隙だらけだよい」
口元に笑みを浮かべて揶揄う俺をひたすらに驚いた顔で見つめて、
慌てた様子でそいつは立ち上がる。
今や耳まで真っ赤な青年を見上げた。
「な・な、なんなんなんで・・ッ!」
えらく慌てた様子で口をぱくぱくと開閉する、この船の隊長の1人である<first>を見上げる。
まぁ無理もないだろう、もう何年もこいつとは同じ船の上で悪友をやってきたのだ。
「いっ嫌がらせかよ!」
しかしあまりに現実逃避な<first>の言葉に、俺はずるりと頬杖をついていた手からずり落とす。
「何でそうなるんだよい」
そんなにも真っ赤な頬をしておきながら。
「だって、じゃあッそれ以外に何があるって言うんだよ!?」
混乱して声を上げた直後、<first>は自分自身の言葉にしまったというように目を見張る。
――何だ・・こいつ、解ってんじゃねぇか。
立ち上がって<first>と目線を合わす。
「そんなの――」
「う、わあぁぁあ〜〜ッ!聞こえない聞こえない!」
バッと子供みたいに両手で耳を塞いで<first>は大声を上げる。
「なッおいお前・・!」
まさかの行動に目を見張り<first>の腕を掴む。
しかし<first>は物凄い力で耳を抑えており、
この細腕の何処にそんな力があるのかびくりともしなかった。
「あ、お、俺っ用事あったんだった!」
あからさまな嘘にそれでも俺の手は緩み、
一瞬の隙をついた<first>が俺の目の前から猛スピードで走り去る。
「待てって、おい!」
残された俺は困惑と情けなさとでぐるぐるしながら<first>の背をただ見送った。
嫌であるならはっきりとそう言ってくれる奴だと思っていた。
だがあの反応は何だ。
まるで乙女のように顔を耳まで真っ赤にしながらも俺の気持ちを聞こうともしない。
「あー・・くそ」
せっかく築いた振られる覚悟も肩透かしを食らってしまった。
気持ちを告げる心の準備にまた何日掛かるだろかと俺は大きなため息を吐いた。

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