あの出来事から何日かが過ぎた。 私はというと住まわせて貰っていた女とどんな勘違いがあったのか喧嘩・・というより一方的に怒鳴られていた。 「ひどい!騙してたのねっ他にも女が居たなんて!」 私はてっきりそれをわかっていると思っていたのだが、と胸のうちに湧いた疑問も彼女の目に涙が滲んでいるのを見てしまえば何も言えまい。 「言い訳もしないのね・・・」 一際切なげに声を震わせた彼女は、私が口を開く前に私の左頬を殴り飛ばしていた。 「ぐあっ!」 ぐわんと頭が揺れ左頬だけでなく顔全体に衝撃が走る。 彼女はそのまま私を家から追い出し浮気者と叫んで乱暴に扉を閉めた。 いや、参った。 彼女には悪いことをしたが、やはりこの年ともなると割り切った付き合いでないと体が持たん。 さてこれからどうしようかと踵を返したとき知った顔がすぐそこにあった。 「あ、どうも」 彼女・・いや彼だったのだこの目の前の人物は。 彼は私が彼に気付いたことが分かると瞬いていた目をはっと見開いて、ぺこりと頭を下げた。 「あー・・久しぶりだね。随分と情けない所を見せてしまったようだ」 罰の悪さに頭を描きながら告げると、彼はいえと少しばかり頬を緩ませて答えた。 相変わらず綺麗な笑みだと口をつきそうになったが押し留まる。 今さっきあのような光景を見られたばかりでそんな口説き文句をいようものなら、今度こそ軽蔑されかねない。 「家、追い出されちゃったんですか?」 躊躇いがちに問う彼にまぁねと口ごもって答えた。 どうも真っ直ぐな彼の目が今は見れず、視線を逸らしていた私にはわからなかった。 このとき彼は何を思いどんな気持ちでその言葉を紡いだのだろうか。 「でしたら、――僕の家に来ますか?」 驚きに視線を彼に移したとき、彼は微笑んですらいなかった。 自惚れるとしたら彼がその頬を赤く染めた理由は緊張にだったのだろう。 私が世辞を述べた時よりも、ずっと赤く。 |