この感情を恋と言うのだろう気付いたら好きになっていた相手は年下の青年だった。
二十一という若さで白ひげ海賊団の二番隊隊長であり、気さくで面倒見も良い。
隊員からも慕われている彼にこんな感情を抱くようになってから
もう二年近く経つのだろうか。
それまでは街に着くたび気に入った女の子と一夜限りの関係を築いてきた僕が、
男なんかに惚れ込むとは自分自身情けない話だ。
告げる気はない。
この先ずっとこの船で生きていくのだから、彼は仲間としてずっと僕の傍にいる。
それで良いのだし、きっとそれが一番良いのだと思う。
ただ彼の些細な言動に大きく左右される自分が気に喰わなくて、
時々こうして皆が寝静まった夜中に甲板に出て一人で酒を飲むことがある。
「はー・・」
酒を飲んで嫌なことは全て忘れられればいいのだが、
今まで僕は酒に酔った経験がない。
酒は美味いが、体が熱くなったり気が大きくなったりふわふわした気分になったり、
ましてや記憶を失ったことは一度もないのだ。
「こんな時間に一人酒かい?」
ふと後ろから声を掛けられ、振り返ると一番隊隊長のマルコが薄く笑みを浮かべていた。
「飲んでくれる相手がいないのさー。
そーゆーマルコこそこんな時間に散歩でもしてんの?」
オヤジだねーと茶化すとうるせぇやいと返される。
とんと僕の隣の船壁に背を預けてマルコは軽く手を差し出してきた。
「余ってんなら俺にもくれよい」
ちゃぷりと手の中の酒瓶を揺らす。
三分の一ほどしか残っておらず、いつの間にこんな飲んだのかと内心苦笑する
手渡すとマルコは礼を言ってぐいと酒を煽った。
「? その傷どうしたんだい」
薄明るい月の光でも分かったのかマルコが僕の顔を見つめて意外そうに問う。
ざわと胸が騒いだ。
「んー?憶えてないや」
努めていつも通りにしたつもりなのに、マルコは酒を煽りながらも僕から視線を外さない。
何となく居心地が悪くて笑みを浮かべてみせた。
「・・慰めてやろうか?」
普段より低く告げられたそれが何を意味するのか、奇しくも僕はそれをすぐに理解できた。
恐らくはそれを知っていたからだろう。
「僕ねぇ、エースに夢中だよ?」
「知ってる」
即座に告げられ、ふっと小さく笑みが零れた。
視線をマルコに戻してそっと手を伸ばす。
無言のままマルコは酒瓶を僕に差し出した。
その手首を掴んでぐいと手前に引く。
「っわ・・!」
バランスを崩して僕の方に倒れてきたマルコが、ぐっと寸での所で足を踏ん張った。
すぐそこにマルコの眸があって驚いたように丸くなっている。
密着した胸から鼓動が伝わる。
馬鹿みたいに速かった。
まるで昼間の僕のように。
「僕も知ってたよ?マルコさ、僕に夢中――」
言葉は途中でマルコの口内に飲まれる。
滑り込んでくる舌を拒むこともせずその首に腕を回す。
罪悪感もなければ背徳感もない。
交わすキスは酒の味がする。
幾ら飲んでも酔えないのは知っていた。



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