うちの船の隊長の一人に自分より四つ年上の人懐っこい青年がいる。 俺がこの船に乗った時から既に隊長であった彼は、 歳が近いこともあってすぐに気の置けない仲になった。 そんな青年に好かれていると気付いたのはもう一年ほど前の話になる。 もちろん、それが仲間に対する感情とは違うものであるということにも。 連日続いた雨から一転して今日は嘘みたいに良く晴れていた。 だから、俺は上機嫌であったのかもしれない。 「何やってんだ?」 船尾で船の縁に座り、ぶらぶらと足を揺らしている後姿に声を掛けた。 「おぅエース君。 いや、あそこに飛んでるカモメは何味にしたら一番美味しいのかなぁーって」 ぐんと背中を仰け反らせて逆さまに 俺を見下ろす青年――<first>・<family>はへらりと笑みを浮かべて答えた。 「カモメは丸焼きで塩味だろ」 絶対にそんな事考えていなかったくせに、こんなつまらない嘘を<first>は良く吐く。 普段は俺の事もエースと呼び捨てなのだが、 エース君やらエースちゃんやら冗談めかして呼ぶものだから どれが普段なのかも分からなくなって来た。 「その傷どうした?」 ふと見下ろす<first>の右目の下に何かで擦ったような傷がある事に気付いた。 これでもこの白ひげの船の隊長だ。 <first>が怪我をしているというのは珍しい事だった。 「へ?」 問うと<first>は腑抜けた声を出して俺の視線をたどり、頬に指を当てる。 「あ、ほんとだ」 そしてまだ真新しいその傷を見付けたらしく指先で薄くなぞった。 「いつの間に怪我してたんだねぇ。 ま、舐めときゃ治るでしょ」 器用にも片手で仰け反りながらまたしてもへらりと笑う。 「どうやって舐めるんだよ」 告げる俺に目を丸くした<first>に笑みが零れた。 天然なんだか馬鹿なんだか。 呆れ半分に思い、<first>の頬に逆さまに両手を添えた。 丸くなったままの黒い眸が近付く。 その傷に浅く舌を這わすと俺の手から<first>の顔がすり抜けた。 体を支えていた唯一の手が船の縁から離れる。 どさりと背中から落ちたにもかかわらず、 <first>は眉一つ動かさずにただ驚いたように俺を見上げていた。 いつもの軽口を引っ込めた<first>にふっと笑みを漏らす。 「鉄臭ぇ」 <first>の返事も聞かずその表情が変わるのも見ず、 その場を後にしながら空を見上げた。 あぁ、良い天気だ。 |