四皇なんて言われちゃいるが俺は皇帝でも神でも何でもなくて、ただでけぇ夢を追いかける一人の男に過ぎない。
当の本人である俺でさえその事実を解っているというのに何故あいつはこうも俺を神格化したがるのだろうか。
「ん・ふ、ぅ・・」
その唇から漏れる吐息が誘っているように聞こえるのもきっと俺の気のせいであるのだろう。
無防備にも俺に組み敷かれた<first>は、柔らかいベッドに背を預けながら目を閉じて俺の口付けを受け入れている。
隙だらけのその気配はむしろ攻め込むことを躊躇わせた。
信用しているというと少し違うのかもしれないが<first>の頭に俺とのこの先はないのだろう。
「んむ・・っ、ん・・」
くちゅりと舌が絡む音が絶え間なく狭い船室に響く。
ゆっくりと顔を上げた俺は、自分の体を支えていた右手をそっと<first>の脇腹に添えた。
赤い顔をしたまま俺を見上げる<first>は不思議そうにするばかりでちっとも俺の意図に気付かない。
するり、と。
指先を服の中に侵入させた。
「っ・・!?」
赤く染まっていた頬を更に赤くして、目を見開き俺を見上げる。
そこに失望の色がないことは幸いだったがそれでも俺はため息を吐きたい気持ちで一杯だった。
熱い素肌に触れた手をそのままに<first>を見つめる。
何処か懇願しているようでもあるそれには気付かないフリをした。
「シ、シャンクス・・」
明らかに動揺している様子で<first>は俺の名を呼んだ。
ただ名を呼ぶだけでは俺は止まることはないと、知っているだろうに。
触れたままの指先を奥へと侵入させると小さく<first>の体が震える。
しかしその唇は何も紡がない。
指先は更に深く進んでいく。
その手を制したのは唇でなく<first>の掌だった。
「・・っ」
俺の腕を掴む手を見下ろしてから<first>に視線を戻すと<first>は小さく声を漏らす。
弱々しく、添える程度の力しか持たない掌。
怖いのだと、その唇が動いてくれたならどれだけ良かっただろうか。
未だ触れたままの指先の数cm上にある心臓が震えるように速い鼓動を打っていた。
それが何だか不憫に思えて俺はつい服の中から手を退却させる。
「あ、と・・えー・あ、あっ、ベンに呼ばれてたんだった・・!」
そして明らかに嘘だと分かる嘘を吐いて、<first>は一瞬の隙に俺の下から脱出してしまう。
ごめんねと何気ない調子で告げる<first>を振り返る。
後ろからでも分かるほどにその耳は真っ赤だ。
ただ俺は<first>のこの行動が羞恥からのみ来ているものでないことも知っていた。
早々に自室である部屋から出て行った<first>を見送ることしか出来なかった、と言うよりも引き止めるだけの気力がなかった俺は体を反転させて<first>のベッドに腰を掛ける。
「参ったな・・」
あの嘘が嘘であると俺が気付かないと思っている訳でもあるまい。
次に顔を合わせた時でも<first>は何もなかったかのような演技をするのだろう。
そしてそれが演技であると俺に気付かれないとも奴は思ってない。
つまりは俺にそれに付き合えと強要するのだ。
必死な目をして拝むように祈るようにねだるように。
果たしてどうすればその眼差しを突き放せるだろうかと、片手で髪を掻き混ぜながら呆れ混じりのため息を吐いた。



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