あいつの視線はいつも一人だけを追っていた。 そしてその視線の意味は想像に難くない。 ただいつも本気なのか冗談なのか分からないことを言って にこにこと笑みを浮かべているあいつだから、 もしかしたらそれに気付いている者は少ないのかもしれない。 俺だってあいつの事を好きにさえならなければ、気付くこともなかったのだろうから。 昼食を済まし甲板に出ると、何やら船員たちが揃って船首の縁に寄り海を見下ろしている。 雰囲気からして何かを楽しんでいるようだが海王類でもいたのだろうか。 「どうしたんだい?」 声を掛けると数人の船員が振り返る。 「あ、マルコさん。今――」 説明を聞かずともその光景は視界に入って来た。 白のストライカーが真っ青な海面を滑る。 いつもはオレンジの帽子を被ったエースが一人で乗っているその後ろに、 黒い髪を風に揺らす<first>が乗っていた。 <first>の楽しげな笑い声が聞こえてくる。 落ちたら溺れてしまうにもかかわらず、 エースはパフォーマーか何かのように巧みにストライカーを操っていた。 「いい年して無邪気なもんだい」 ふっと笑みが漏れ、縁に頬杖を付きながらそれを眺める。 しかし俺の笑顔はゆっくりと消えていった。 おーおー、あんな顔して。 遠目にも笑っているのだと分かる<first>の表情はまるで子供のようで、 そして恋をしている乙女のようだった。 今年二十五になる男相手にそう思えるのは俺だけかもしれないが それがエースがさせている表情であることは確かであった。 「いやー楽しいねこれ!」 船の傍まで戻って来た<first>がそんな声を上げた。 すると俺に気付いたのかひらひらと手を振ってくる。 「マルコも乗れば?」 浮かんでいたのは確かに笑みであったが、 自分に向けられるそれがエースの時とは僅かに違う。 それに気付いたのももう最近ではない。 「野郎の後ろなんて乗りたくねぇやい」 微笑って返すとエースが確かにと笑い飛ばす。 特にお前の後ろなんて願い下げだと皮肉ったそれを表に出すことはせず、 呆れたように笑みを零した。 「エースもう一回っ」 幼い子供のような<first>の言葉にエースは苦笑してはいはいと返事をする。 白いストライカーは飛沫を上げて再び船から遠ざかって行った。 まるで連れ去られたみたいだ。 笑えない心境にそっと目を細める。 浮ついた恋愛しかして来なかった<first>の噂がぱったり途絶えたと思うと、 いつの間にか本命が出来ていた。 ただ<first>はそれを本命に、エースに明かす気はないのだろう。 恐らくは二人がこの船にいる限りずっと。 ・・・随分と不毛な恋だない。 広大な海の上に、二人を乗せた小さなストライカーは そのまま地平線へと消えてしまいそうに見えた。 いっそ本当に消えてしまったらこんなややこしい感情を抱かずに済むのだろうか。 そんな願いも空しく水面に綺麗な弧を描いたストライカーは船へと帰ってくる。 「また乗せてねー」 ほんと不毛な恋だ。 惚れたのがあの笑顔にだなんて。 #ac18_today##ac18_total# |