船は<first>を乗せて再び海へ出た。
あれからというもの<first>は俺に近寄ろうとせず、
目を合わせないというより目が合うと睨まれてから逸らされる。
ついに嫌われただろうかと思ったが、船に乗ってきたのだからそうでもないのだろう。
放って置いたらまた変に思い詰めるだろうかと悩んでいた所、
船尾で愛銃の手入れをしていたベンに近付いていく<first>を見た。
「お頭、ルウがメロン貰って来たらしいんで食べましょうよ」
視線をそっちに遣っていると不意に声を掛けられ、
振り返るとうちの幹部らが幾つかの熟したメロンを囲んでいる。
「お、いいな!」
思わず声を上げて幹部の中に混ざる。
ヤソップが腰元からナイフを取り出して切り分け始めた。
視界の端では<first>がベンに話し掛けている。
この距離では何を話しているのか聞き取ることは出来ない。
昔から<first>の相談役はベンだった。
この船に<first>が初めて乗った日も俺が戦闘で怪我をした時も、
仲間が死んだ時もいつも<first>はベンの元へ行き
そして次の日には何でもない顔をしている。
だからついこの間まで俺は<first>の泣き顔を知らなかったのかもしれない。
もしかしたらベンはそれを知っているのだろうか。
この歳で今更相談役、しかもベンに嫉妬することはないが、
それでも何となくもの寂しい気になるのは事実だった。
「はい、お頭」
ヤソップに八分の一のメロンを渡され、礼を言って冷えたそれに齧り付く。
するといつの間に話を終えたのかベンが俺にもくれと顔を出して来た。
視線を船尾にやると苛立ったように<first>はこっちに向かってくる。
あんな表情も珍しい。
ベンには何か相談したんじゃなかったのだろうか。
「<first>、お前もメロン食うか?」
「要らないよ!」
はっきりと告げて<first>はそのまま船室へ向かう。
バタンッとえらく乱暴に扉が閉められた。
「・・おいベン」
隣でくつくつと笑うベンに困ったような表情を浮かべる。
あれはきっと八つ当たりだろう?
「何言ったんだ?」
問うとヤソップからメロンを受け取ったベンが依然として笑みを浮かべたまま上機嫌に答えた。
「何、皆お前のことが可愛くてしゃあねぇんだって伝えてやっただけさ」
恐らくベンは何となく全てを知っている。
そりゃあ<first>もさぞ腹が立ったことだろうと食べかけのメロンをベンに押し付けた。
「甘ぇな」
俺の目を見てベンが告げた言葉は果たしてどちらの意味なのかと
ため息を吐いて船室へ向かう。
「甘やかすのが俺の役割だからな」
ベンに返した言葉を聞いた何人かの幹部は唐突な俺の言葉に不思議そうな表情をしたが
ベンだけは違いねぇと告げて、また低く笑った。



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