今まで何人かの女に恋をして関係を持って、愛してもきた。
だが俺はどんなにその女を愛していても
常に心の中にはいつかは終わるという思いがあった。
それは悲観的なものでなく、海賊としての諦めだろう。
だからと言って愛することを避けて来た訳でもなかった。
むしろいずれ失うものだと解っていたからこそ積極的であったかもしれない。
それでも<first>にそういった感情を抱いていることに気付いた時、
何もしようと思わなかったのは<first>が永久的に俺の傍にいると確信していたからだ。
そして<first>が俺に恋慕の情を抱いていることを知っていた俺は卑怯な選択をした。
何も失わない選択を。

陽が昇ったばかりの海辺は肌寒く、波の音だけが淋しく響く。
こんな自分すら見失いそうな場所で<first>はどの位の間、何を考えていたのだろう。
姿が見えないと探しに出た先で<first>は一人海岸に佇んでいた。
「来ないで」
足音を立ててつもりはなかったが、近寄った俺に<first>は振り返ることなく告げた。
足を止めると<first>はゆっくりと続ける。
「何も言わずに・・このまま皆とここを出て欲しい」
そんな願いを俺が聞き入れると、<first>は本気で思っているのだろうか。
苛立ちよりも焦燥が湧いた。
手放す気などない。
<first>を拾ったあの日から元より、手放す気などないのだ。
目の前にある姿が消えてしまいそうで俺は足を進めた。
砂の立てる足音に<first>の体が僅かに動く。
「・・シャンクス」
牽制するような<first>の声が聞こえても俺は足の速度を緩めなかった。
「っ、シャンクス・・!」
追い詰められたかのように声を上げる<first>は
振り返ることもしなければ逃げることもしない。
片腕で抱き締めた小さな体は、確かにそこに在った。
「愛してる」
波の音にも掻き消されることはなかったそれが自分の耳にも入ってくる。
今まで俺の中で姿を潜め続けていたそれは、漸く言葉となって<first>へと届く。
力の抜けたようにがくりと膝を折る<first>を支えるように回した腕に力を込めた。
「馬鹿じゃねぇのか・・っ!」
絞り出したような声は痛々しげに掠れている。
続いて聞こえてたのは漏れ出る嗚咽だった。
「何で今更・っ、そんなこと言・・!」
それ以上は言葉に出来なかったようで<first>はひたすらにしゃくり上げる。
俺の腕に抱かれたまま<first>は喚くように泣いた。
ガキみたいに声を上げて顔を涙でぐしゃぐしゃにして泣く姿を、
ガキの頃から一緒にいるのに初めて見た。
何も失わないと思っていた選択はただ俺に都合の良いものであって
実際はこんなにも<first>を傷付けていた。
崩れそうな<first>を俺が支えることが出来るなら、
そしてそれが<first>を愛してやることなのだとしたら幾らでも愛してやろう。
永久にとは断言できない。
だが、それが永久であっても良いと思えた。
むしろそうであって欲しいと、
今まで一度も生じたことのなかった感情が芽生える。
朝日に照らされた生温い涙の伝う冷えた頬に後ろから唇を触れさせる。
奇しくも初めて<first>に触れた、そんな気がした。



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