移動した島の端で漸く手を離すと<first>は小さく、掴んでいた手首を擦った。
白い肌が痛々しいほどに赤くなっている。
それに罪悪感を抱くことはなかった俺はやはり今まともな状態じゃないのだろう。
「船を降りたいと思うようになったのはいつからだ?」
言及したのは糸口でも見つけたかったからだ。
しかしそれが既に唯の時間稼ぎであると、俺はきっと解っていた。
「・・わかんない。最近かもしれないし、もうずっとそうだったかもしれない」
曖昧なその答えははぐらかす為のものではないのだろう。
その言葉が仕草がいちいち俺を不安にさせる。
もう自分は考えたのだと、色んなことを考えてそれで俺に告げたのだと、
言いたげに<first>は苦笑した。
余計な問答は必要ないかのように思えた。
俺が今更なことを言った所で<first>の決意は変わらないのだろう。
だったらと、考えた俺はそこまでに必死だった。
「俺が嫌になったのか?」
驚いたように<first>は目を丸くする。
その目を見つめ返す俺の意図に<first>は気付いたのか、小さく声を立てて笑う。
「よく言うよ」
恨みがましく声を低くして、それでも笑みを浮かべたまま。
馬鹿らしいとばかりに<first>は息を吐き出して俺に背を向ける。
「待て、まだ話は――」
「アンタだって本当は気付いてるんだろ?」
振り返った<first>にもはや笑みはなかった。
睨むように俺を見据える。
初めて向けられる視線に俺が驚くばかりで何も言えずにいると<first>は自嘲的に微笑った。
「好きなんだよ。何もかもを捨ててアンタを愛したい」
告白である筈のそれはまるで別れの言葉のようだ。
自分には俺を愛することは出来ないと、そう告げているようで。
遠ざかっていく後姿をただ俺は見つめていた。
今口を開いたとしても俺は<first>を引き止めることは出来ないだろう。
その後姿には迷いも躊躇いも戸惑いも、何一つ感じられなかったのだから。



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