気付いたのはもう半年以上前のことだった。
今更というのもある。
六年も同室で過ごしてきて今更好きだなどと告げても奴は困るに違いない。
友達というものを貫くつもりだった。
たった一年、この気持ちを隠すのは容易い。
しかし夕方に自室に戻って来た奴の顔を見た時、俺はその決心が一瞬で揺らぐのを感じた。
「どうしたんだ!?」
空気を読むこともせずにそう尋ねたのも仕方あるまい。
いつもくるくる笑っている奴が目を真っ赤に腫らして泣いている顔など、一度も見たことはなかったのだ。
「あ・、文次郎・・っ」
逃げるように部屋に入って来た<名前>は俺が部屋にいる可能性など考えなかったようだ。
見張った目を慌てて手の甲で擦る<名前>に手を伸ばす。
「よせ、余計に腫れるぞ」
手首を掴むと<名前>は俺を見る。
涙はまだ止まっていなかった。
「ふ・・ッ、ど、どうしよ・・っ」
きつく目を閉じた<名前>の瞼から大粒の雫が零れる。
「ど、しよ・・ッ、長次のこと・・っ好き、な・・!」
語尾はしゃくり上げる声で掻き消された。
しかし俺がその言葉を理解するには充分過ぎるほどだった。
そして何故<名前>が泣いているのかも。
跳ね上がる鼓動も構わずに<名前>を掻き抱いた。
――長次には小平太がいる。
誰も口には出すことはしないが、誰もが知っている事実だった。
「っ・・く、っ、う・っ・」
俺の胸に顔を埋めた<名前>は声を殺して泣いていた。
俺は喜ぶべきなのだろう。
思いを寄せている相手の恋が散ったのだ。
だがそんなものは何処にもない。
<名前>を抱き締める腕に力を込める。
込み上げたのは吐き気にも似た、己への苦々しい嫌悪だった。



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