何でいつも<名字>とお昼を食べてるの?と就寝前に何気なく口にした雷蔵のその疑問は、もっともだったろう。
同じ組になったことはもちろんなく、特別親しくしていた訳でもない。
何故と聞かれてそんなことが頭に浮かんだ俺に答えなど返せるはずはなかった。
「えっと――」
言葉に詰まった俺を不思議そうに雷蔵は見つめてくる。
きっと答えはそんな純粋な問いに相応しくはないようなそんな気がした。
「雷蔵も混ざるか?」
結局出たのはそんな誤魔化しの言葉で、それがわかったのか雷蔵はちょっと眉を下げた。
「もう」
呆れたように、それでも口元笑みを浮かべる雷蔵にはきっと言えまい。
なぁ雷蔵と不意に聞きたくなったこともやはり声には出なかった。
「さ、そろそろ寝ないと明日の授業に響くぞ」
行燈に手を伸ばす俺を見て雷蔵は些細な疑問を諦めたらしい。
「じゃあおやすみ」
布団にもぐるその姿に俺は半分安堵し、半分落胆した。
「おやすみ」
ふっと部屋の灯りが消える。
途端に頭の中に響いたのはあの涼しげな声だった。
『鉢屋』
あの声が俺の名を呼ぶ度に胸の奥が騒ぐ。
『ねぇ鉢屋、アンタは何で僕に構われてるの』
無表情の眸が俺の眸を縫い付ける。
<名字>が不意に口にした問題に俺は何と答えれば正解だったのだろうか。
雷蔵に聞いても仕様のないことだと解っていても、俺が咄嗟に答えたものよりはマシだったことだろうと思わずにはいられない。
惹かれた理由が恋などという甘酸っぱいものではないような気がした。
それともそれも俺がそう思いたいだけなのか。
やはり答えの浮かばない俺の出した言葉に<名字>は眉を寄せたのだ。
怒ったように唇を微かに震わせて、決して俺から目を逸らさずに言い放つ。
『何それ―――』
「・・・からかってる訳じゃない」
寝始めた隣の雷蔵に聞こえないほどの小さな呟きは紛れもなく本心であるのに。
布団に入って目を閉じても<名字>の顔が声が言葉が消えない。
きっと眠れない夜にひとつ舌打ちをした。



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