それは木からぶら下がっていた。
頭を下にして真っ白な顔をするそいつが最初は血が引いているのかと思ったが、逆様なのだ、むしろ赤くなるはずだろう。
「血が昇らないのか?」
ただの興味から声を掛けると、視線を空の向こうにやっていたそいつの目が私を見る。
その目はガラス玉のようで生き物のような、気味の悪い存在感を放っていた。
「ん」
言ってするりとそいつは目を逸らす。
あえて私を見ないようにしているのではなく、その一度の会話で私との関わりを終えたかのようにそいつはもう私を意識の外にやった。
「何してるんだ?」
声を掛けても視線は宙から動かない。
「・・・空」
会話は成立していないが、一応の返事をしたそいつに歩み寄ってみた。
ぶら下がっているためにそいつの顔の方が俺の顔より地面に近い。
見下ろしながら腰を折って、ぐいと顔を近づける。
そいつの視界を遮るためにやったそれは意外にもあっさり成功し、ガラス玉はまた私に向いた。
「授業出ないのか?」
私を見つめたままそいつは何も答えない。
「・・じゃあさ、」
ただの興味だった。
日常に退屈していた中に突如現れた非日常を、逃すわけにはいかなかったのだ。
「私も一緒にサボっていいか?」
表情を変えぬままそいつは腕を上げる。
すらりと伸びた白い指が私の手首に絡んだ。



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