短期間で大勢の仲間が殺られた。
いずれこの集団の脅威になるだろうと棄てたはずのあいつが、何故今になってこうも俺たちを惑わすのか。
「復讐か?」
問うと同時に十数歩先の仲間の体が倒れた。
血塗れのそれはもはやただの肉塊でしかない。
ゆるゆると奴は首を振る。
見慣れない仕草に、果たしてこいつは本当に数年前に棄てたあいつだろうかと馬鹿なことを考える。
「・・清算」
ぽつりと呟くそこに怒りも悲しみもなかった。
奴には俺が人に見えていない。
というよりも、奴には何も見えていないようだった。
「<名前>・・覚えてんだろ? 俺がお前を拾って、名前を付けてやったんだ」
額には冷や汗が伝っていた。
俺も生き残った仲間も動くことが出来ずにいる。
一歩でも動いたら殺られると、血生臭い空間に研ぎ澄まされた本能が告げていた。
もう一度、奴は首を振る。
そしてその顔に初めて表情らしいものを――微笑みを、浮かべた。
「でも、そっちの僕は空っぽだから」
奴の口の端が吊りあがる。
「全部いらないの」
それはまるで死刑宣告のようだった。
諦めが浮かんだ直後に視界から奴の姿が消える。
いつかはこうなると何処かで分かっていたのかもしれない。
手放すのが遅すぎた。
奴は、あの日拾ったあれは、とても俺の手に収まるものでは無かったのだ。
あの真っ黒な眸をした化け物は。


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