「まだあれに入れ込んでるのか」
どうやら同期の奴はこぞって私のことが好きらしい。
そんなことを思ったのは、い組との共同訓練の最中に仙蔵がそう問いかけて来たからである。
「<名前>のことか?」
聞き返すと仙蔵はそれ以外に何があると言いたげな目で私を見た。
「譲らないぞ」
笑って言うと仙蔵はあからさまに嫌な顔をして眉を寄せる。
「茶化すな小平太」
台詞は本音だったが話を逸らしたことは事実で、私はまた笑った。
しかし仙蔵がその表情を緩めることは決してなく私のことを見据えたまま冷淡に告げる。
「あれはただの孤児ではない」
私がゆっくりと瞬きをするのを仙蔵は相変わらずの顔で見つめている。
「知っているよ」
名字もない授業にも出ない、なのに戦い方は充分知っていて、それでいてこの学園に留まることを許されている。
そんな奴が普通の孤児じゃないことくらいわかる。
私の反応に仙蔵は苛立ったようにため息を吐いた。
「あれは――」
「でも」
言葉を遮ると仙蔵は目を見張った。
「それは<名前>の口からしか聞かない」
のぼせあがっているとそう言いたいのだろう。
留三郎も文次郎も仙蔵も、皆<名前>が何か普通でないことを知っている。
「そうか」
意外にもそう返事をしたときの仙蔵の顔はそう険しくなかった。
「お前がそれでいいなら私はもう何も言わん」
ぽんと私の肩を叩いた仙蔵は何事もなかったように訓練に戻っていく。
てっきりまた怒られるか呆れられるかと思った。
何だか拍子抜けしてしまい、ぼんやりとその背中を見送る。
確かにのぼせあがっているのかもしれない。
訓練に戻りながらも私の頭の中に浮かぶのは<名前>のことばかりだ。
もう少し待って、と。
何かに怯えたように<名前>は目を伏せた。
普通じゃないと言い敬遠している私たちこそ忍なのだと、皆は気付いているのだろうか。
鮮やかに微笑む<名前>のその掌に、頬に、躊躇いながら手を伸ばしているのは、いつもいつも私の方であるのだ。



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