傍若無人、唯我独尊。 小平太とは違う意味でそんな言葉が似合いそうな男を目の前にして私は昼飯を食っていた。 焦げ茶の髪を鬱陶しそうに耳にかけて、男は目線だけを上げる。 「何?」 苛ついたような口調も普段通りだ。 「いや」 聞いたくせに私の返答には興味がないようで、そうと素っ気なく告げて男ー<名字><名前>は視線を机の上へと戻した。 用があった訳ではない、私が<名前>を見ているのは<名前>の態度が高慢であるのと同じくらいいつものことである。 ふと<名前>の定食に沢庵があるのを目にして何気なく箸を伸ばした。 私の箸の軌跡を驚いたように目を丸くして追う<名前>はそのまま私の目を見た。 「嫌いだろう?」 <名前>の目の縁が赤く染まる。 屈辱に感じただろうか。 もしかしたら自尊心を刺激したかもしれないと、或いはそれでもかまわないと<名前>を眺めると<名前>は軽く唇を噛んで顔を背けた。 「食べれなくはない」 耳まで赤くしたその顔は照れているようにも見え、つい小さく笑みをこぼした。 「何」 先程よりもいくらか語気を強くして非難するように<名前>が問う。 「いや」 浮かんだ笑みを消して先程と同じ表情をして言っても<名前>は何処か気に入らないようだ。 「お前は可愛いな」 <名前>の皿の沢庵をまた口に運びながら言うと、顔を見ずとも苛立っているだろう声色で<名前>が言葉を返す。 「からかってんの」 「そういうわけじゃない」 空になった皿から箸を戻し、私は自分の盆を手に立ち上がる。 眉を寄せて私を見上げている<名前>に視線を落とした。 「好きだと言っている」 抑揚ない口調での告白に<名前>は驚くことはせず、むしろ更に眉を寄せて睨むように私を見る。 「もう聞いた」 そうか、と頷いて<名前>をそのままに返却口へと盆を返しに行く。 もう<名前>を振り返ることはない。 好きだと、初めて伝えたのは確かひと月ほど前のことだ。 その時も<名前>は驚かなかった。 表情を変えず、ただ私を見て、知っているとそれだけ告げた。 髪と同じその焦げ茶の眸の奥であいつは一体何を考えているのか。 ため息を飲み込み教室へと向かいながら、また私は<名前>に好きだと言うのだろうと、思いそっと目を伏せた。 |