学園の仕事の出先で偶然通りがかった村には人の気配がまるでなかった。
焼け落ちた家屋、噎せ返る血の臭い、黒く焦げた肉塊からその理由は想像に難くない。
この近くで戦が起きているという話は聞かないが盗賊にしては凄惨すぎた。
その村の外れで背中に致死的な傷を負って倒れていた唯一の生き残りを学園に連れ帰ったのはもう二年も前の話になる。
目が覚めた時、自分の名しか覚えていなかったその子供を学園に置くことに反対する者は誰一人としていなかった。


カタンと障子が音を立てた。
部屋で明日の授業の準備をしていた私は人の気配に立ち上がる。
障子を開いた先に見えたものに私はひとつため息を吐いた。
「・・そういえば今日は月の初めだったな」
見慣れた紫色の風呂敷を拾い上げるとずしりと掌に重みが伝わる。
開かずとも中身が小判であることはわかっていた。
必要ないと何度言っても、どこから稼いできたのかあの子は学費を月ごとに置いていく。
授業も風呂も食堂も学園のものは一切使っていないにもかかわらず、だ。
廊下に出てこれを届けるべく学園長の部屋へと足を向ける。
――あの子を助けたのは失敗だったのだろうか。
「って、馬鹿か私は・・」
頭を振ってくだらない考えを消し去る。
しかし未だ一度もあの子の笑顔を見たことのない私は、どうしてもそう思わずにはいられなかった。


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