「ただいまー」
時計の針はとっくの昔に十二時を回っていた。
最近は世界的に経済状況が良くない所為でこんな日も少なくない。
煮え切らない上司と頭の緩い上司ばかりで嫌になる。
やってみねぇことには何も始まんねぇだろーが。
思い返しながらふと視線を上げるとリビングの灯りが点いている。
夜更かしは得意じゃないあいつが寝ずに俺の帰りを待っていてくれたのだろうか。
疲れも忘れて浮かれた気分でリビングの扉を開く。
しかしそこに想像した光景はなかった。
「・・ぷっ」
テレビも点けっ放しで、<first>は座った体勢のままソファに背を預けて眠っている。
まぬけに口を開けて眠る様子に思わず噴き出した。
「風邪引くだろ、ばか」
くしゃりと<first>の前髪を掻き上げる。
すると意外にも眠りは浅かったのか<first>の目が薄っすらと開いた。
「あ、おかえり〜・・」
へらりと口元を緩めて、嬉しそうに<first>は俺に両腕を伸ばす。
<first>の隣に座ると細い腕がすぐさま腰に巻き付いた。
「ただいま。遅くなって悪かったな」
俺の胸に頬を擦り付ける<first>を見下ろす。
まるで猫のようで思わず口元が綻んだ。
「ううん。仕事お疲れ様」
可愛くて殊勝な様子についついその頭を撫でたくなる。
しかし伸ばした手は<first>の頭に触れることなく空中でぴたりと止まった。
「・・・・何してんだ」
目下では<first>がかぷり、かぷりと俺の服に噛み付いている。
よく見ればそれは俺のYシャツのボタンを一つずつ外す動作であった。
「ん? 何してるように見える?」
Yシャツのボタンを全部外して、口はそのままズボンのベルトへと移動した。
「あー・・今日はな、その、ちょっと疲れててだな」
どうしたら傷付けずに断れるだろうかとしどろもどろになる俺など露知らず。
腕は俺の腰に回されたままであるにもかかわらず器用にも<first>は口でベルトを外してしまう。
「じゃあ一回だけ。ね?」
いいと言う前からその口はジッパーを下げ始めている。
さっきまでの殊勝な様子は何処へやら。
<first>は今や発情した猫そのものだった。
「ん、汗の臭いする」
「バッ・・!」
鼻先を俺の下着に押し付ける<first>に恥ずかしいことを言われ咄嗟にその顔を引き剥がそうとその髪を掴むが、<first>は頬を赤く染めて唇の辺りを下着に押し当てたまま俺を見上げた。
「えっちぃにおい・・勃っちゃった」
あぁこりゃもう止まんねぇな。
<first>のエンジンが掛かったのを目の当たりにした俺は諦めに肩を落とし、体の奥で燻り始めていた熱に敗北したのだった。

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