<first>が帰って来たのは翌日の夕方だった。 スペインの家に泊まってそのまま買い物をして来たのだという。 俺が深く追求することもなければ<first>も何も話さぬようで、いつも通りに夕飯を食って風呂に入って寝た。 そしてもう日常となるのだ。 「そういえば、こないだ<first>がうちに泊まりに来たで」 知っとると思うけど、と付け加えてマドレーヌを頬張りながら俺の家のソファに腰掛けるスペインは突拍子もなくそんなことを言った。 「あぁ、悪いな迷惑掛けて」 俺の言葉にふいとスペインは視線を向けてくる。 スペインとの付き合いはもうかなり長いものであるが、この目だけはどうも得意になれない。 責め立てるような眸にいつも俺は居た堪れなくなるのだ。 「ええよー別に。 何か<first>がめっさ落ち込んどったから、慰めさせてもろたし」 にかっとしたその笑顔は日焼けした肌に良く似合う。 そしてその褐色の肌はそれを良い様にも悪い様にも映した。 心臓がゆっくりと音を立て始める。 鈍く俺の胸の内のみに響くそれは酷く重々しかった。 笑みを崩さぬままのスペインから目を逸らせない。 その唇が開く動作が酷くゆっくり映った。 「なに本気な顔しとんの」 眉を顰めて苦笑するそれが本物であることを悟り、俺は小さく息を吐き出す。 言い訳するには滑稽すぎて俺は口を閉ざしたままでいた。 「そんな顔するくらいやったらもっと大事にしてやりぃ? 堂々と浮気して傷付けて後悔なんて、笑えへんよ」 スペインの言っていることは最もだった。 だが俺のしていることは本当に浮気と呼べるのだろうかと、そんな思いが<first>の反応を見る度に強くなる。 俺がどこで何をして来ようが自分には全く関係ないかのように振舞う<first>は、俺のその行動を一体どんな風に思っているのか。 「大事にしてやる、ね・・」 俺が女にふらふらするのを止めて愛しているのはお前だけだなんて言えば、<first>は満足するのだろうか。 きっとそんなことをしたら、この関係は壊れる。 何一つはっきりとしないこの関係をやり直せるとしたらどこに戻るのだろう。 甘く囁くのも柔く抱き締めるのも、もう俺達には遅すぎるのだ。 |