もう何度こうやって彼に声を掛けたことだろう。
「え・・えと、あ、僕カナダに呼ばれてて・・」
あからさまな嘘に数え切れないほど傷付き、それでもその姿を見掛ける度に声を掛けてきた。
「大丈夫、そんなに時間は取らせないからね」
笑って告げると<first>は視線を彷徨わせながら、じゃあ少しだけと今にも逃げ出しそうな足踏みを止めた。
「近いうちで空いてる日はあるかい?」
「え?」
漸く俺を見上げた青い眸は真ん丸に見開かれている。
その眸に映ることさえこんなにも嬉しいなんて、きっと<first>はこれっぽっちも気付いちゃいない。
「本当は今日食事に誘おうと思ってたんだけど、カナダとの予定があるみたいだからさ」
<first>は可笑しいくらいに何度も瞬きをして、それでも俺のことをずっと見上げたままでいる。
「・・え、誘う?誰を?」
「君に決まってるだろ?」
カナダとの予定なんてないことはわかっている。
そもそも最初から食事に誘ったところで<first>が来るなんて思ってはいない。
「ぅえっ?僕?え、えっと・・あ、空いてない・・!」
俺の質問をやっと理解したのか、顔を俯かせて懇願するような声色で<first>が告げた。
「・・ねぇ」
それは自信というよりも多分、ただの自棄だったのだろう。
自分より頭一個半分低い<first>の顔を腰を曲げて下から覗き込んだ。
「っ!?」
弾かれたように<first>が顔を上げる。
あぁやっぱり、と胸に広がったのは切なくなるほどの安堵だった。
「何で顔赤いの?」
「えっ・・あ・・!」
動揺しているのだろう、真っ赤になった目の縁に涙さえ滲ませて。
「だめ、目逸らさないで」
アメリカ、と縋るような声で<first>が小さく俺の名を呼ぶ。
「俺のことが嫌いなら、逃げていいよ」
ひゅっと<first>が息を吸う。
瞬きをすればその涙は零れてしまいそうだった。
「ねぇ、<first>・・」
そっとその頬に手を伸ばす。
指先が触れただけで<first>はびくりと肩を震わせた。
「好きだよ?」
決して俺から逸らされない眸が一際大きく開かれる。
生温かい雫が一つ、俺の指に跳ねた。




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