【なぁ、こうやってほとんど毎日俺と会うの疲れねぇ?】
唐突な俺の言葉にそいつは少しだけ目を丸くして、すぐにいつもの冷めた顔に戻る。
別にと無愛想に答えたそいつの機嫌を損ねたかどうかはわからないが、続く一言でそいつは更に目を大きく見開いた。
【俺ん家に住めば万事解決だと思うんだけど、どうよ?】


来るもの拒まず去るもの追わずの女癖が悪い俺が友達とは違った意味で一人の人間を何ヶ月も俺の家に住まわすのだから、他の女とそいつが違うというのは誰が見ても分かることだろう。
しかしだからといって俺の女癖の悪さが改善された訳ではなく、俗に言う浮気という奴は日常茶飯事だ。
だがそいつがその事に対して何かを言ってくることもなく、朝帰りをする俺を見てもいつもと同じ無表情でおかえりと告げるだけである。
告白もなければ恋人という表現を使ったこともない。
もしかしたらあいつにとってみれば恋人ではなくただのセフレという関係なのかもしれないと、知らず俺は勝手にそう思い込んでいた。


玄関の扉を開けた先にいたのは、今日は帰って来ないと今朝方告げた筈の同居人だった。
「あれ・・何で?」
ついさっき上手く掴まえて来た女の子の隣で俺は腑抜けた声を漏らす。
目の前の同居人――<first>は全く表情を変えずに俺を見つめ返した。
ぽたりとその毛先から水が垂れる。
どうやら風呂から出たばかりのようで格好も薄着である。
「誰?」
呟いたのは<first>ではなく隣の彼女であった。
可愛い顔を怪訝な表情に顰めて<first>を凝視している。
「あぁ、ごめん。急用出来たって今夜の予定キャンセルされちゃってさ。
でもこれからスペインとこに行くつもりだったから」
言って<first>は俺たちの横を通り過ぎようとする。
何とも可愛げのない態度に俺が半ば呆れながら驚くのと同時に、再び彼女の声がこの玄関に響いた。
「嘘よ」
見ると彼女は不機嫌そうな顔をしていて、ふんわりとした雰囲気も今は何処かに消えてしまっている。
俺の右を通り過ぎようとしていた<first>が足を止め、微かにため息を吐いたのが聞こえた。
それはそれは面倒そうに。
「だってフランスさんと貴方、同じ匂いがするもの」
だから何だと彼女に聞かなくとも言いたいことは理解出来た。
浮気相手として口説かれたことが気に入らないのか彼女は<first>を睨み付ける。
「そりゃ僕は居候だからね。同じ匂いもするだろ」
ふっと可笑しそうに微笑った<first>の顔が演技であることはすぐに分かった。
「じゃ、じゃあ証明して!この人の前で私にキスできる?フランスさん」
いきなり俺に話を振られ目を丸くする。
目の前の彼女は俺の方をじっと見つめて少しだけ顔を近付けて来た。
今更そこまでして今夜この子が欲しいとは思わないが、俺が気になったのは<first>の視線だった。
さっさとしろよ。それで終わるんだから。
そう言いたげな視線に苛立ちが湧かないはずはなかった。
「馬鹿らしい。友達のキスシーンなんて見たくないね」
俺が彼女を拒む事を悟ったかのように<first>が口を開いた。
彼女の視線も自然<first>に移る。
見ると<first>はうんざりしたように俺を見つめ返した。
「僕もうスペインとこ行くよ?これ以上遅くなると迷惑だし」
「待っ――」
彼女が目を丸くして<first>に声を掛けようとするのを無視して、<first>は再び口を開いた。
「あぁ、あと。今日は帰って来ないから」
バタンと玄関の扉が閉まった。
残された二人には何とも気まずい空気が流れる。
「あ・、あの・・ごめんなさいフランスさん。私その・・熱くなっちゃって」
罰の悪そうに彼女が告げた。
それを何と言ってフォローしたのか良く憶えていない。
その後俺はいつも<first>を抱くベッドで彼女を抱いたが、浮かぶのは<first>のことばかりだった。
スペインの所に泊まりに行くと告げた<first>に今の俺が浮気を疑うのは何とも身勝手なことだろう。
だが胸の内に湧いたのは彼女への欲望でなく、嫉妬や焦りなど酷くどろどろとした醜いものであった。


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