いつから彼のことを好きになったのかは自分でもわからない。
ありきたりだが、いつの間にか、と言うのが正しいのかもしれない。
いつも明るくて誰にでも優しくて。
好きなったきっかけはそんなところだった。
あくまでもきっかけとして、ではあるけれど。
「そういうことじゃなくてだな・・・」
城の中庭から不意に知った声が聞こえてくる。
何気なく視線を向けたのはその声の傍に彼がいることが多いと知っているからだろう、予想通りに彼は声の持ち主である馬超殿の隣で笑っていた。
彼の笑顔のほとんど全てが偽物であると気付いたのは最近のことである。
「何を見ているのです?」
唐突に後ろから声を掛けられびくりと肩を竦ませる。
「諸葛亮殿・・!」
振り返ると諸葛亮殿は薄く笑った。
「すみません、驚かせてしまったようですね。貴方が熱心に何かを見つめていたものですから」
告げると諸葛亮殿は視線を僕の向こう側に遣る。
そしてあぁと納得したように息を漏らした。
「そういえば貴方の片想い、実ったみたいですね」
言う諸葛亮殿に一度も彼が好きだと告げたことも恋人同士になったと報告したこともないが、この人の前では隠し事など無用だろう。
うーん、とあいまいに唸りながら諸葛亮殿を見上げる。
「どうでしょう」
僕の返事に諸葛亮殿が意外な顔をすることはない。
細められた眸は何処か彼に似ていた。
「実ってはいないみたいですけど」
想いを告げた時、彼は酷く驚いたように目を丸くして僕を見ていた。
自分も好きだったと返されたそれが真実でないかもしれないとすぐに思ったのはそのせいだ。
奇しくも普段の彼の表情が偽りであることに僕に気付かせたのは、その驚きに染まった彼の偽りのない顔であった。
「どうやら事情がおありのようですね」
僕を見下ろしながらそう返す諸葛亮殿は何だか僕の言いたいことを全て理解しているようだった。
諸葛亮殿ならば彼が何を考えているのかも解るのだろうか。
あの日彼が僕に好きだと返したその理由を、未だに僕は見つけ出せずにいる。



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