最初から彼のことが好きだったのかと聞かれたら答えはいいえだろう。 顔を真っ赤に染めて目を伏せて口をぱくぱくさせながら要領を得ない言葉ばかり吐く彼がつまり俺が好きだと告げているのだと理解した時、俺は初めて彼に興味を持ったのだ。 俺も好きだったとするりと口をついて出たそれは、きっと今世紀最大の嘘だ。 くるりと丸いつむじを見下ろしながら俺はそんな数日前の出来事を思い出していた。 「えっと、だから劉備様が馬岱さんも会食にどうかって」 恥ずかしそうにたどたどしく伝えられたそれは甘い言葉でもなんでもなくて、ただの劉備様からの伝言である。 「<名前>君は来ないのかい?」 名を呼ぶと彼はようやく顔を上げた。 綺麗な顔をしているとは既に何度も思ったことだ。 蜀の女将や女官たちが放っておかなそうな顔立ちをしている彼ではあるが、色恋の噂を聞いたことは一度もなかった。 まぁこの隣に並べば大方の女性が見劣りしてしまうだろうことは、わかりきったことであるけれども。 「僕はうーん、あんまりそういうの得意じゃないし」 少し眉を下げて困ったように言う。 ただそれだけの動作でも彼は絵になるほど綺麗だが、俺が興味を持ったのはその内面だった。 しかしきっかけはこんな綺麗な彼が何故俺を好きなのかとそんな理由であったから、一概に内面だけとは言い切れないのかもしれない。 「君が行かないなら俺も行かなくていいや」 俺の言葉に案の定彼は少し目を丸くして、すぐに頬を染めた。 まるで少女のようだと自分より幾らか年下の将を見下ろす。 「あ、あのさ、じゃあ良かったら今夜一緒にご飯行かない?」 その頭の中も胸の内も俺にはさっぱりわからない。 そんなことを思いながら俺はもちろんだよと答えて笑う。 俺が彼の何を知っているのかと言えば、その容姿が端麗なこととそして俺のことを好きであるという、ただそれだけだった。 |