「どうかしたんですか、殿」
随分と早く決着がついた戦の帰路で左近がそう声を掛けてきた。
「何のことだ」
馬を足早に進めながら、斜め後ろの左近を振り返らないままに答える。
「何のことって・・」
わかっているだろうとばかりに言葉を濁す左近に無言のままでいると、笑い混じりのため息を吐いた左近がようやっとまともな口を利いた。
「<名前>殿と何かあったんでしょう」
本当に気味の悪いほど聡い男だと視線を右後ろへと遣った。
「何故そう思う」
「お二人とも様子が変ですからね。特に殿、貴方の<名前>殿に対する態度が奇妙なほど素っ気無い」
そんなことはない、と否定したのは胸中のみであった。
あの時の自分の行動を後悔しているのかと問えば答えは是である。
翌日の<名前>は極めていつも通りであった。
おはようと前夜の出来事には何一つとして触れずに笑みを向けてきた<名前>に、果たして俺が出来ることなどあったのだろうか。
「それで、だったらどうだというのだ」
顔を正面に戻して問うと左近はまた言いよどんだ様であったが、いえ、と棘のある言葉を続けた。
「殿がどうでもないとおっしゃるなら、何でもないですよ」
結局のところ何を言いたかったのかわからぬまま、後には馬の足音だけが残る。
誰のどんな言葉も聞くつもりはなかった。
大方全てを理解しているだろう左近のお節介でさえも。



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