BLEACH


仕事が早く片付いた夕方に儂は自室で部下と時を過ごしていた。
儂の淹れた茶を啜りぼんやりと奴は正座した膝元を見つめる。
今日は余り元気の無いようだ。
いつも何処かぼうっとしている所はあるが、今日は無意識だろう先ほどから何度もため息を吐いている。
「儂で良ければ相談に乗ろう」
そう声を掛けると弾かれたように儂を見上げ、困ったように微笑った。
「すみません、折角誘って頂いたのに・・暗くしちゃって」
湯飲みを置いてふっと儂から視線を逸らす。
何か悩みがあることは誰が見ても明白だ。
「儂では力になれぬか?」
余りしつこく聞くものではないとは思ったが今まで一度もこういう事がなかっただけに気に掛かる。
問うと奴は少し慌てたように首を振って、取るに足らないことだと告げた。
しかし黙ったまま見つめる儂に奴は諦めたように小さく息を吐き出した。
「・・貴方と口付けをするのにその鉄笠は邪魔だなぁなんて、そんなことを思ったんです」
何処までも自然な口調で紡ぎ出されたそれに暫く儂は反応が出来なかった。
表情は見えなくとも儂が驚いているのが分かったのか、苦笑して奴は再び湯飲みを手にした。
「冷めちゃいますよ。飲まないんですか?」
「ん?あぁ――」
その視線の先に儂の湯飲みを見付けて咄嗟に湯飲みを掴む。
言葉を返す間をすっかり見失ってしまい、その後もそれに触れなかった奴に再び儂から切り出すことは出来なかった。
まともが思考が戻ったのは奴が儂の部屋を後にしてからだ。
「・・参った」
腑抜けた声が自室内に木霊する。
手を頭に置くと同時に、鉄笠と手甲がカチリと耳障りな音を立てた。


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